新たに認める有限責任組織の監査法人には、社員1人につき100万円の最低資本金と同200万円の供託、財務諸表の開示を義務づける方針も示した。現行では無限連帯責任の組織しか認められていない。
過失で粉飾を見逃した監査法人には、粉飾期間中に受け取った監査報酬全額を課徴金として支払わせる。意図的に粉飾に加担した場合は5割増額する。最大で過去7年分の不正が対象になる。
粉飾関与による監査法人の不当利得は、実質的には監査報酬から必要経費を引いた額とみなせるが、金融庁はこれを大きく超える水準の課徴金を科せるようにして不正を抑止する考えだ。
課徴金制度は、カネボウの粉飾決算事件による中央青山(現みすず)監査法人への業務停止命令で、顧客約2300社の監査契約が途切れるなど大混乱した教訓から、市場や企業に迷惑をかけない手段として浮上した。導入論が強かった刑事罰が見送られた経緯もあり、課徴金額を抑止力が働く水準に設定できるかどうかが焦点だった。
不当利得を超える課徴金に対しては経済界に反発があるほか、政府内でも「刑事罰との関係で二重処罰を禁じた憲法に触れる恐れがある」との慎重論が根強いが、「不正は割に合わないと思わせるだけの額が必要」とする金融庁が押し切った。監査法人の課徴金が制裁色を強めることで、ほかの課徴金制度の見直し論議にも影響が出そうだ。
談合などに対する独禁法の課徴金は06年、大企業製造業で売り上げの6%から10%に引き上げられたが、内閣府は再改正の方向性を今夏にも打ち出す。有価証券報告書の虚偽記載やインサイダー取引に対し、05年に導入された証券取引法の課徴金制度でも、金融庁は今後1年程度かけて金額を引き上げる方向で検討する方針だ。