家族や友人から同性愛者だと告白されたひとの動揺を受け止めようと、川崎市多摩区のかじよしみさん(44)が昨年、「カミングアウト無料電話相談」という試みをした。かじさんの携帯電話には約140人から計213件の相談が寄せられた。活動は昨年末から休止中だが、その声からは性的少数者をめぐる切実な実情が見えてきた。
(二階堂友紀)
最も多かったのは母親からで、全体の2割に当たる約30人を占めた。「ゲイ雑誌を見つけて無断で処分してしまった」「カウンセリングで治せるものなら治したい」「わたしの育て方が悪かったせいではないか」。そんな声が寄せられた。
しかし、同性愛は病気でも後天的な嗜好(しこう)でもない。かじさんはよく「生まれつきの左利きのようなもの」とたとえる。
それでも、「引きこもりがちの娘の悩みを聞き出したら同性が好きだと分かった」「息子に告白されたショックで精神科に通っている」など、双方が追い詰められている場合が少なくなかった。
「夫と息子の板挟みになっている」「夫婦の間に亀裂ができた」という訴えも聞かれた。
一方、父親からは「結婚しないと宣言されたが孫がほしい」という1件だけだったという。
また、夫や妻などのパートナーから告白されたひとも約20人いた。「10年前に知り、家庭内別居状態で寂しい」(40代男性)、「結婚30年で孫もいる。1年前に分かり、愛されていなかったのではないかと悩んでいる」(50代女性)、「4年前に知った。老後を一緒に暮らしていけるか自信がない」(50代女性)。
こうした相談の背景について、かじさんは「同性愛者への社会的偏見と同性間のパートナーシップが認められていないことの相乗効果で、異性愛者と結婚せざるを得ない同性愛者が出てきてしまう」と解説する。
全体を通じ、うつの症状を訴えるひとが目立ったが、精神科に通っていても「主治医に同性愛のことを話せない」という問題点も垣間見えた。
かじさんは91年、HIVに関するボランティアで初めて同性愛者と知り合い、異性愛者だけの社会を前提にしてきた自分に気付いた。93年に渡米し、ヒューマン・セクシュアリティの修士号を取り、同性カップルの子育て支援にも携わった。
同性愛者を対象にした相談窓口やグループはあっても、周囲のひと向けのホットラインはなかった。大学の非常勤講師などをしながら、携帯1本で相談活動を始めた。
「日本では同性愛者の存在が目に見えず、正しい情報も得にくいから、知らされたひとの戸惑いは当然。ただ、それをすべて当事者に負わせるのは酷」と、かじさんは周囲のひとの悩みを受け止める場の必要性を語る。カミングアウトを成功させるコツについては「相手にも受け入れる時間が必要。いつ、どんなかたちで話すのか、配慮をしてあげて」と話した。
今後は相談に対応するためのトレーニングを受け、新たな活動を模索していく予定だという。
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