[ガス中毒死]「誤使用の事故も公表していたら」
ガス湯沸かし器などによる死亡事故が、過去に多数発生していたのに、機器メーカーは、公表していなかった。信頼を傷つけるお粗末な対応だ。
業界団体である日本ガス石油機器工業会の発表では、1986年以降の過去約20年間に、ガス機器による火災や重症事故などは、計1476件発生していた。このうち、一酸化炭素(CO)中毒による死亡事故は、129件あり、199人が死亡した。
昨夏に発覚したパロマ工業製の湯沸かし器の死亡事故などを踏まえ、経産省が過去にさかのぼった調査を指示し、集計が初めて、まとまったものだ。
件数や死者の多さに驚く。メーカーの情報収集が不十分なため、これでも、ガス事業者などから報告を受けた経産省が把握する数字より少ない、という。
製品の安全を最優先しなければならないメーカーが、詳細な事故情報をつかめず、把握した一部の情報も自主的に公表しない。事故にあまりに鈍感で、「無責任」と批判されても仕方がない。
メーカー別の死者数の内訳は、松下電器産業が66人で最も多く、パロマ58人、ノーリツ26人、リンナイ22人と続く。これまで明らかになっていなかった松下などでも、事故が相次いでいた。
松下などは、未公表とした理由を「製品に起因する事故でなく、換気不足など誤使用が原因のため」と説明する。
これで消費者の信頼が得られるだろうか。誤使用が重大事故につながる恐れがある場合、メーカーが、安全に製品を使用するよう、消費者に注意を喚起するのは、当たり前のことではないか。誤使用分を含め、事故情報を直ちに公表していたら、再発を防げたかもしれない。
経産省は、「換気しないと死に至る恐れがある」という警告の表示や、湯沸かし器などの不完全燃焼防止装置が作動した後、再点火を防止する装置を義務付ける新たな防止強化策をまとめた。
防止策の具体化を急いでほしい。全国に約1100万台あるガス湯沸かし器の緊急点検も加速したい。
改正消費生活用製品安全法が5月に施行され、重大事故の情報を経産省に10日以内に報告することがメーカーなどに義務付けられる。ガス・石油機器の重大事故は、ただちに公表され、誤使用分も含め、メーカー名などが発表される。
情報の速やかな公表をはじめ、教訓を生かした体制を確立すべきだ。
不信感を払拭(ふっしょく)するには、メーカー、ガス事業者だけでなく、国の責任も重い。事故情報に敏感に対応し、信頼回復と製品の安全に努めねばならない。