「何であんなことしたんだ!」。福井市のスナック。糸川議員がソファに座ると、いきなり右隣の山元容疑者から強い口調で国会質問をとがめられた−。
糸川議員は二十二日午前、脅された当時の状況を国会内で語った。
昨年三月、東京から地元に帰っていた糸川議員は、元閣僚秘書二人のいる席に呼び出され、あいさつだけのつもりでスナックを訪れた。秘書二人は話に加わらなかった。店内には暴力団関係者風の男十人以上がいて「入った瞬間に異様な感じがした。早く立ち去らねば」と思ったという。
だが、同議員は山元容疑者と左隣の暴力団組長に挟まれる形で座った。組長は話に加わらなかったが、山元容疑者とともに前草津市長の芥川容疑者とみられる男の二人から脅された。
糸川議員は両容疑者と面識はなかった。芥川容疑者が前草津市長だということも当時は分からず、その後に捜査が進む中で、伝え聞いて初めて知ったという。
糸川議員は「国会質問を暴力で封じようとすることは断じて許せない。今後も厳然とした態度で国政に臨む」と語った。
■地権者複雑 整理が難航
糸川議員が国政の場で取引状況をただした東京都港区南青山の土地は、表参道交差点に近い都心の一等地にある。ブランド店が立ち並ぶ国道246号の「青山通り」。同交差点から三百メートルほど北東へ歩くと、工事現場を覆うような鉄製の壁が突然現れる。広さ約五千平方メートルの空き地が、ぽっかりと口を開ける。
最大地権者の都市再生機構(UR)は二〇〇三年七月、初めてこの土地の一部を取得。現在、約二千六百平方メートルがURの所有になっている。有効利用のため、所有権を整理して民間に譲渡する予定。だが、URによると、投資目的で不動産を購入した人物もいるほか、暴力団が介在しているとの情報や国会議員を通じた取引話などもあり、土地整理は難航しているという。
残りの土地のうち約千八百平方メートルの中には、「平和奥田」が地主から購入し、同じ日に米国の投資会社系不動産会社が取得した部分もある。
この不動産取引をめぐっては、毎日新聞が昨年一月、米国の投資会社系列の不動産会社が土地を買収した際、山口組系暴力団関係者に手数料が渡った疑惑を掲載。投資会社側は同月、毎日新聞社に一億ドル(約百十六億円)以上の賠償などを求めてニューヨーク連邦地裁に提訴し、同十二月に和解した。
■言論テロの側面も
田島泰彦・上智大教授(メディア法)の話 国政の最も重要な問題を議論する場である国会の活動が脅かされた深刻な事態だ。国会の持つある種の権威から、かつては議員活動へのストレートな脅迫的言辞はあまりなかったように思うが、最近はそれを意に介さない妨害、工作が目に余る。怖い風潮だ。今回の事件は、毎日新聞記者への脅迫に発展する可能性もあり、言論テロにかかわる側面もある。メディア、社会は、たまたま起こった事件と受け止めるのではなく、もっと強い危機意識を持ち、事態に対処していくべきだ。
■逮捕状の前草津市長 黒いうわさ絶えず
前草津市長の芥川正次容疑者(48)は同市出身。元総理大臣の故宇野宗佑氏の秘書を十二年務めて一九九五年に滋賀県議に初当選。二〇〇三年二月に草津市長選に立候補して現職を破り当選した。
「改革、実行、挑戦」を旗印に土、日曜日の窓口業務開始、黒塗り公用車廃止などを公約に掲げた。だが、特定業者と癒着の悪いうわさもつきまとっていた。
〇四年二月に市長選に絡む収賄容疑などで滋賀県警に逮捕され、一審の大津地裁では実刑判決。二審の大阪高裁で〇五年四月に懲役二年、執行猶予五年の有罪判決を受けた。
芥川容疑者は、山元容疑者と同じ中学の先輩後輩の関係。有罪判決確定後、芥川容疑者は家族を残して滋賀県を離れ、山元容疑者とともに千葉県に移り住んでいたらしい。
芥川容疑者の名前が再び別の事件で登場したことに、草津市のある職員は「派手なパフォーマンスが多かったが、元気ではっきりしていて職場の雰囲気は明るくなった。しかし二度も事件を起こすとは」と驚いていた。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070222/eve_____sya_____007.shtml