「潜水道具を使って、海に潜っている人がいるようだ」。1月16日夕方、茨城海上保安部(ひたちなか市和田町)に匿名の通報があった。
通報では、現場は保安部にほど近い大洗町磯浜町の岩場。「真冬の岩場に夕方潜るとは。密漁に違いない」とにらんだ保安官が急行すると、ウエットスーツにボンベを背負った男2人が、大量のアワビが入った網を手に岩場の陰から上がってきた。
保安官は2人を県海面漁業調整規則違反で現行犯逮捕し、合わせて約300個のアワビ(32万円相当)を密漁したことを突き止めた。2人は水戸簡裁の略式命令に従って、それぞれ罰金10万円を納めた。
県内では、北は北茨城市から南は大洗町まで、広い範囲でアワビ漁が行われている。県全体の水揚げ量は年23トン(2004年、関東農政局まとめ)で、市場では「まずまずの評価を得ている」(県漁政課)という。
簡単に漁ができているわけではない。大洗町漁協は毎年、アワビ漁を営む組合員が共同でアワビの稚貝を放流している。漁ができる大きさに成長するまで3年以上かかるという。
それだけに「もともと少ない資源を大事に育てて漁をしている。それを手当たり次第に密漁されたら、漁ができなくなる」と密漁への怒りは強い。県内では04年にも日立市の沖合で密漁をしていた水戸市の4人組の男らが現行犯逮捕されているが、組合員は「密漁はもっと多いのでは」とみる。
しかし、摘発は容易ではない。アワビが生息するのは岩場で、密漁者が海に潜るのは夜間。陸上パトロールでは見つけにくく、海上の船舶から監視しようとしても、座礁の可能性があるためなかなか近寄れない。
組合も保安部も常時密漁を監視するのは難しく、1月の逮捕も「現場が海保と近かったことなど、たまたま条件がそろったケース」(保安部)だった。
実は1月の2人は2000年にもアワビの密漁で罰金命令を受けている。漁協の中には「たとえ罪を認めて罰金の10万円を払っても、それ以上の額のアワビを密漁すれば元は取れてしまう。罰則が軽すぎる」との不満もある。
厳罰化が密漁に歯止めをかける一番の近道との主張だが、県漁政課は「この規則は、漁業法と水産資源保護法に基づいて県が定め、国が認可したもの。県独自で罰則を強化することはできない」としている。
■県海面漁業調整規則■ 水産資源保護と漁業調整を目的とする県の規則。アワビの場合、基本的に漁業権がないと漁はできないが、規則により10月1日〜5月31日は原則禁漁で、さらに時期にかかわらず殻長11センチ以下のアワビは一切取ることができない。違反すると「6月以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金」などが科せられる。