二人は松下明夫弁護士(仙台弁護士会)と松井武弁護士(第二東京弁護士会)。
両弁護士は、麻原死刑囚の訴訟能力の審理が不十分だと主張し、二〇〇五年八月末の期限までに控訴趣意書を提出しなかった。このため東京高裁は昨年三月、控訴を棄却。同年九月には最高裁が特別抗告を棄却し、麻原死刑囚の死刑が確定した。東京高裁はこの十日後、「弁護人は訴訟の進行を妨げ、被告の裁判を受ける権利を奪った」として日弁連に処置請求した。
日弁連は決定で「処置請求は審理中の裁判を迅速に進めるために助言や勧告をする制度で、懲戒請求とは異なる。裁判が終わった後に訴訟を遅らせた制裁として請求するのは不適法」と結論付けた。弁護士が取った行動の是非は「懲戒請求があれば判断する」とした。
東京高裁は「日弁連は弁護士の遅延行為について判断を回避した。同様の行為を防止するためにも処置請求は必要で、今回の判断は極めて遺憾」としている。
最高裁によると、裁判所が弁護士の懲戒を請求するのは一九七〇年以来で、五件目となる。
■「門前払いだ」 東京高裁
麻原彰晃死刑囚の弁護人二人を不処分とした日弁連決定について、処分を求めた東京高裁は「内容の是非に踏み込まず、形式的に門前払いしただけだ」と強い不満を表明した。一方、当事者である弁護士二人の側も「日弁連が判断を回避したのは遺憾」と話した。
裁判所の処置請求は刑事訴訟規則に基づくが、請求期限は決められていない。杉崎茂日弁連副会長は「公判中に裁判所に激しく抵抗した弁護士に、裁判終了後に制裁を加える目的で請求するのは制度の趣旨から外れる。裁判所はひとつの権力なのだから、原則を守る必要がある」と話した。
これに対し、山名学東京高裁事務局長は「オウム弁護人の行為は、刑事訴訟法を無視して国民の信頼を失いかねない重大な行為なのに、当否についての判断を回避したのは遺憾」と批判した。
処置請求の対象となった松下明夫弁護士は「いわば門前払い。控訴趣意書を提出しなかった経緯について議論した上で判断してほしかった」。松井武弁護士も「処置請求は弁護活動を委縮させる効果が絶大で、させてはいけない」と話した。
<メモ>処置請求と懲戒請求 刑事訴訟規則は弁護人や検察官が法律や規則に違反し、裁判の迅速な進行を妨げた場合、裁判所は日弁連や弁護人の所属弁護士会、検察官に指揮監督権を持つ者に通知し、懲戒処分などの適当な処置を請求しなければならないと規定。また弁護士法は弁護士が同法などに違反し、信用を害したり品位を失う非行があったりした場合、誰でも所属弁護士会に懲戒処分を請求できると定めている。処分は除名、退会命令、業務停止(2年以内)、戒告の4種類。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070216/mng_____sya_____011.shtml