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東京都北区の女性(46)はNOVAへの怒りが収まらない。
入会から2年あまりたった01年12月、もっと通おうとレッスン600回分にあたる600ポイントを約72万円で買った。
解約を申し入れたのは03年7月。138ポイントを使っただけだった。50万円前後は返ってくると計算していたが、担当者が示した返金額は約26万円だった。
一部のポイントはレッスンを受けていなくても「有効期限」が切れたとされた。使用済みポイントは購入時とは違う高い単価で計算されて差し引かれた。
3カ月後、NOVAに損害賠償を求める訴訟を起こした。判決では、NOVA側が事前に約51万円を女性への支払いのために供託したことから請求そのものは棄却されたが、NOVAの計算方式は不当と認められた。
解約したのは、予約が取りにくくなったうえ、講師のやる気の差が大きくなっていくように思えたからだという。
精算の根拠について正式な書類を求めると、2週間待たされて渡されたのは「これ以上この件で請求しない」という文言への署名を求めた「同意書」だったという。
大津市の工務店役員安川支朗さん(41)は入会から2年後の02年3月、解約を申し出た。約76万円で買った600ポイントのうち、使ったのは54ポイント。示された返金額は約4万5000円だった。
安川さんは03年5月、実際に使ったポイントの分だけ、購入時の単価で精算するよう求めて提訴。半年後、安川さんが返金額として主張する約70万円をNOVAが支払うことで和解した。
安川さんによると、解約を申し出た際、教室の責任者に明細を出すよう求めたが、パソコンを見ながら「打ち出せない仕組みになっている」と拒まれたという。
京都市の司法書士、植松香さん(30)は04年10月、約30万円で買った150ポイントのうち36ポイントを使った時点で解約。返金額を約5万9000円とした精算書と「同意書」が送られてきた。現在、NOVAと最高裁で係争中だ。
植松さんは言う。「早く辞める人からもできるだけたくさんお金を取りたい。NOVAはそう考えているんでしょうか」
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NOVAの精算方法を問題視する声は、かねて消費者団体の間で上がっていた。
日本生協連合会などが母体のNPO「消費者機構日本」(COJ、根来泰周会長)は05年6月、各種学校をめぐる契約トラブルの電話相談を実施。予備校や塾などについての相談が62件寄せられた。NOVAの解約についての苦情も複数あったという。
COJは同年9月、契約時と違う単価で精算するのは特定商取引法に違反するなどとして、規定を改めるよう申し入れた。NOVAからは「広く認められた精算方法で、その内容は合理的」などと回答があった。
学者や弁護士らでつくるNPO「京都消費者契約ネットワーク」(理事長、長尾治助・立命館大名誉教授)が04年12月、同様の申し入れをした際には、「どのような法的根拠で申し入れをしているのか」という内容の回答だった。
国民生活センターによると、外国語・会話教室をめぐる相談件数は01〜05年度の5年間で約1万7000件。うち約1万6000件は契約・解約のトラブルが含まれている事例だ。また、関係者によると、ここ数年、全国の消費生活センターに寄せられたNOVAについての苦情・相談は年間で1000件前後に上り、ほかの英会話スクールを引き離しているという。
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NOVAは猿橋望代表が海外生活の経験を生かして81年に大阪で創業。他社に比べて安い受講料や「駅前留学」をうたい文句にした広告キャンペーンで人気を集め、急速に業績を伸ばした。
教室数は93年に100店を達成。以降も新規出店を加速させ、05年度末には994店に達した。05年9月現在の生徒数は48万人で67%のシェアを誇る(同社調べ)。
しかし、入会者数が頭打ちとなった影響で06年3月期決算では96年のジャスダック上場以来初めて、最終損益が約30億円の赤字に転落した。
このため、同社は07年3月期は一転、80店以上を閉鎖するリストラ策に着手して来期以降の収益回復を計っている。
http://www.asahi.com/national/update/0216/TKY200702160103.html