告訴から5カ月あまり。巧みな手話で、県内外の聴覚障害者が現金をだまし取られた事件は14日、新たな局面を迎えた。警視庁と山梨県警は、福祉機器販売会社社長小林洋子容疑者(55)=東京都目黒区=らを詐欺容疑で逮捕した。しかし、被害者らに金が戻る見通しはなく、悔しさ、怒り、悲しみは募る一方だ。(一部地域既報)
■被害者「怒り収まらぬ」
被害者からの相談を受けていた甲府市北新1丁目の県立聴覚障害者情報センター。小沢恵美相談員は、知人から連絡を受け、同日午前7時40分ごろ、県内在住の被害者の会の会員に、メールで連絡した。
650万円を小林容疑者に預けていた、耳が不自由な30代の男性会社員はテレビ電話付き携帯電話で、小沢さんに思いを伝えた。
男性は、県内の聴覚障害者の仲間を通じて、小林容疑者を紹介された。それだけに聴覚障害者の心をもつかむ手話を使って、詐欺行為を働いた小林容疑者に対し、「怒りが収まらない」と憤る。
同日正午ごろには、60代の夫婦が同センターを訪れた。05年9月、現金1100万円を小林容疑者に預けたまま、金を返してもらっていない。
きっかけは、自宅に届いた小林容疑者からの「大事な話があるので話したい」というファクスだった。ファミリーレストランで会った。
巧みな手話で熱心に説明する小林容疑者。利息表を示すなどして3時間以上にわたって説得を受けた。そして自宅近くの郵便局から金を振り込んでしまった。
以後、お金を返すよう迫ったが、「無理」と取り合ってもらえない。
その後も数十回にわたり、「本当に生活が苦しい 全額をすぐ返して欲しい」とメールを送信した。だが、返信メールは「おとなしく待ってて下さい」の一点張りだった。
逮捕を受け、60代の夫は「ほっとした」と胸の内を語る。しかし「結果的にお金が戻ってこなければ、素直には喜べない」と顔を曇らせた。妻は「今、障害基礎年金で2人合わせて1カ月8万円で暮らしている」と話す。「面識のない人が家へやって来ると、何かたくらみがあるのではないかと疑ってしまう」と精神的な傷も負ってしまったという。
県内には被害者が約30人はいるとみられている。同センターの小沢さんは言う。
「お金を出した人の中には、返ってくるとまだ信じている人もいるが、早く目覚めてほしい。明らかにこれは詐欺だから」。
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