ハリケーン「カトリーナ」の被害から1年半近くたった米南部ルイジアナ州ニューオーリンズ。「被災前より強固な、大きな街をつくる」というネーギン市長の復興の青写真がぼやけ始めた。市民は戻らず、人口は約20万人と半減したまま。凶悪犯罪だけは戻った。被災前に戻るのは無理だとの声も出始めた。
「ENOUGH」。センター地区に住む教会執事ヘンリー・クーパーさん(59)は、そう書かれたステッカーを自分の車に張った。「いい加減にしろ」といった響きだ。
今年最初の1週間に1日1件の割で殺人事件が発生、住民3千人が抗議デモをした。02年に殺人事件の被害者が10万人あたり53人と全米主要都市で最悪を記録したが、カトリーナ後、住民避難や州兵の治安維持出動で凶悪犯罪は激減していた。
だが昨年6月、中心部近くで一晩に若者5人が射殺されたのを機に流れが変わる。昨年の殺人事件約160件のうち100件以上が後半に集中。20万人都市の人口あたりの件数は全米で最悪の部類だと地元紙は報じた。
ヒューストン市の元市長で著名な治安コンサルタントのリー・ブラウン氏が半年をかけて治安立て直し計画を市長に提案することになった。
ネーギン市長は昨夏、被災前には45万5千人だった人口が06年末までに30万に回復すると述べたが、実際は半分程度にとどまっている。住宅再建などの復興資金の申請手続きが複雑で行き渡らないうえ、住宅の建築費が高騰して住民が戻りにくくなっているとされる。
同州の人口問題に詳しいエリオット・ストーンサイファーさん(55)は、戻ったのは19万5千人▽市の約110キロ圏内に戻り、時々市を訪れる人が8万5千人▽外国人労働者など一時的な新住人が2万〜4万とみる。州外などに避難民が17万5千人いることになる。
市の人口は60年代に60万を超えたが、00年国勢調査で48万5千、05年7月の推計では45万5千に減少。高収入の白人の郊外流出が続き、黒人が7割近くというカトリーナ前の人種構成ができた。
市の都市計画にかかわってきたテュレーン大のリード・クロロフ建築学部長(46)は、再建の速度が重要とみる。「戻っていない人の多くは借家住まいだった裕福でない人たちだ。時間がたつほど避難先での生活に追われ、機会を失う」
それでも荷扱い量全米第4位の港、テキサス州ヒューストンに次ぐ石油化学基地、観光客を引きつける独特の文化を持つニューオーリンズは、復興資金の流入が順調なら元の規模に戻る可能性は十分あるとクロロフさんは指摘。一方、ストーンサイファーさんは人口のドーナツ化が進み、市街地に人口が集中するカトリーナ前の姿には戻らないのではないかとみる。
ただ、犯罪都市の汚名をぬぐう具体的な手を緊急に打たない限り、復興はないとの見方は共通している。