憲法研究会は敗戦直後、元東京帝大教授の高野岩三郎氏(後に戦後初のNHK会長)の呼びかけで、鈴木氏や早稲田大教授の杉森孝次郎氏、社会学者の森戸辰男氏(後に片山・芦田両内閣の文相)=いずれも故人=らが応じ、結成した。
1945年12月26日、研究会は政府の憲法調査会の改正草案よりも1カ月以上早く、憲法草案要綱を発表。「統治権は国民より発す」と国民主権を明示。「(天皇は)国民の委任により専ら国家的儀礼を司(つかさど)る」と象徴天皇制に通じる提起をし、「法の前の平等」「男女の平等」など、現憲法と共通する条文を列挙。新聞各紙は一面で報じた。
この要綱にGHQは素早く反応。翌年1月11日付でラウエル中佐(民政局法規課長)が「いちじるしく自由主義的な諸規定」「憲法草案中に盛られている諸条項は民主主義的で、賛成できるものである」と所見を書くなど高く評価した。
要綱がGHQ案の「下敷き」になったと指摘する研究者は多く、「米国から一方的に押しつけられた」という通説を否定する根拠とされている。
映画は、雑誌の女性編集者が鈴木氏の娘に出会い、日記帳などを手掛かりに新憲法制定の核心に迫るというストーリー。反戦映画を数多く手がけてきた大沢豊さん(71)が監督を務め、鈴木氏の役は高橋和也さん、妻俊子さん役は藤谷美紀さん、編集者役は田丸麻紀さんがそれぞれ演じている。撮影は終わり、3月上旬に完成後、各地で自主上映される。制作費約2億円は鑑賞券にもなる制作協力券の販売(1口10万円)でまかなわれる。問い合わせは電03(3524)1565、「日本の青空」製作委員会まで。
◇今の世に何と…
「日本の青空」の原作・脚本を担当した脚本家池田太郎さんの話 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条)すらますます遠い方へと向かっている今の時代に「憲法改正」が叫ばれ、政治や教育現場は憲法を無視する方向に進んでいる。鈴木安蔵氏が生きていたら私たちに何と言うだろうか。
◇人間味あふれる人
鈴木氏の教え子で助手も務めた浅井敦・愛大名誉教授(75)の話 温厚で人間味あふれる人だったが、「権力は時として判断を誤る」と熱く語っていたのが印象的だった。
【鈴木安蔵氏】 1904−83年。福島県小高町(現南相馬市)生まれ。治安維持法適用第1号となった京都帝国大「学連事件」に連座して大学を自主退学。以後、在野で明治初期の自由民権運動やフランス、ドイツの憲法史の研究を続けた。戦後は静岡大、愛知大などで教授を務めた。憲法施行直後の1947年6月、雑誌「改造」の座談会で「日本では議員自身の素質が比較的低く、責任の自覚もない。新憲法は国会中心主義というけれど、官僚が今までとあまり違わない勢力をふるうのではないか」と述べている。
http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20070212/mng_____sya_____005.shtml