ふくみだし
保険金の不払い問題を巡って金融庁と生損保業界の対立が深まっている。損害保険では、不払い事例の線引きを巡って金融庁と解釈の違いがくすぶる。3月末に自主調査を終える予定だった生命保険でも、金融庁が今月1日、すべての特約を含めた不払いの洗い直しを求める強硬姿勢を示した。保険業界は3年越しの不払い問題の幕引きを図りたい意向だが、悪質な事例が認定された場合には、金融庁が業務停止命令などの厳しい処分に踏み切ることも予想される。
◆対立点
金融庁との協議が難航しているのは、損保が販売した医療保険などの「第3分野」と呼ばれる商品の不払い問題だ。
損保大手6社が昨年10月末に公表した第3分野の不適正な不払いは過去5年間で約4300件。金融庁は公表分以外にも不払い事例がないかどうか各社から聞き取り調査を続けている。その中で、東京海上日動火災保険など一部の損保の主張は、金融庁と食い違いを見せている。
最大の対立点は、医療保険の契約者が加入時に病歴などを正確に告げない告知義務違反の扱いだ。告知義務違反が判明すれば、損保会社は契約者に自主的に解約してもらい、保険料の一部を返還することがある。損保会社は「不払いではあるが保険料を返還しており不適正な不払いには該当しない」と主張している。
これに対し、金融庁は「告知義務違反をした契約者は保険会社から契約解除すべきだ」として、契約者に自主的な解約を求めることは不適正で、不払い事例にあたると指摘。こうした食い違いで、東京海上日動の場合、公表時の約800件から200〜300件の上積みを求められた模様だ。
自動車保険の不払いについては、金融庁から3度目の調査を求められた損保各社が最終的なとりまとめの段階に入っている。今月15日以降4月末までに、三井住友海上火災保険など大手損保6社が調査を完了する予定だ。業界では、自動車保険の不払い調査結果が出そろう4月以降に、第3分野の不払いとあわせた処分が、金融庁から出されるとの観測が浮上している。
大手損保の中には4月以降にトップ交代を控えているところもある。社長交代と重なれば「引責辞任」と受け取られる恐れがあるため、損保各社は金融庁処分が出される時期に神経質になっている。
請求なくても調査対象金融庁要求
◆追い込む金融庁
生命保険については、明治安田生命保険が2度の業務停止命令を受けた2005年以降、不払い問題が沈静化したと受け止められてきた。05年12月から進めてきた不払いの自主調査も、対象は各社の判断に委ねられていた。しかし、入院給付金だけを請求して、がんなどの「3大疾病」などの特約部分の請求をしていないケースが今年1月、大量に見つかったため、金融庁は今月1日、顧客から請求がない場合も含め、すべての保険契約を4月13日までに調べ直すよう各社に求めた。
支払い対象でありながら請求がないケースについて、生保側は「請求がなければ不払いでも法的には問題がない」と主張している。これに対し金融庁は、契約者保護の観点から、「保険会社の側から契約者に請求を促すべきだ」と反論している。
金融庁の意向通りに点検すれば、生保は入院給付金の請求のため医師から提出された診断書を丹念に読み直し、特約内容と照らし合わせる作業が必要になる。業界内では「今さらやれと言われても期限には間に合わない」(関係者)との声も出ているが、金融庁は「保険業界の信頼はがけっぷちにある」との立場で、厳しく対応する構えだ。