家族によると、一月中旬、女性宅に一本の電話がかかってきた。「医療費の還付がある」と説明され、女性は一昨年、がんの手術を受けたこともあり、還付を疑わなかったとみられる。女性は相手の指示で現金自動預払機(ATM)に行き、言われるまま機械を操作。還付を受けたつもりが、複数の銀行口座にあった計約五百万円を次々と指定口座に振り込んでしまったという。
女性が通帳の残額を確認し、だまされたと気づいたのは同月下旬。その日、会社員の夫に「家族をよろしく」とメールを打ち、直後に睡眠薬を大量に飲んだ。発見が早く、救急車で病院に運ばれたため助かったが、意識が回復しても「死にたい」「殺してください」「私の責任」と繰り返し、窓から飛び降りようとしたり、コードで首を絞めようとしたりした。夫と高校生の長女が数日間、仕事や学校を休んで寝ずに監視したという。
被害に遭ったのは、長男を建設予定のグループホームに入所させるため、建設の分担金や入所費用に充てようと夫婦で長年ためてきた金だった。今回の事件で、ホームの話は白紙状態になってしまったという。日ごろから「私たち親がいなくなった時のために」と話していた女性の落胆は大きかった。
夫は「妻の命があったことだけが、せめてもの救い。(事件で)家族がめちゃくちゃになってしまった」と憤る。長女も「(事件以来)泣き続け、最後はもう涙も出なくなった。ここまで追いつめた犯人が憎い」と声を絞り出した。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070204/mng_____sya_____016.shtml