伝承や温泉療養などの経験則を基にした温泉の効用(適応症)決定基準が見直されることになった。
根強い温泉ブームの中、正確な表示を求める利用者のニーズに応えるため、環境省が科学的に検証し直すことにした。来年度中に検証を終え、2008年度にも新基準を策定する。
温泉を巡っては、04年に長野県で入浴剤使用が発覚したのをきっかけに、水道水を沸かしただけなのに「温泉」と称するなど不祥事が続出。環境省は同年10月、中央環境審議会自然環境部会に「温泉小委員会」を設け、信頼回復への対策を検討してきた。この中で「医学的な研究が年々進んでいる。正しい情報をきちんと発信すべきだ」との声が高まった。
環境庁(現環境省)が1982年に都道府県に通知した「温泉の適応症決定基準」では、成分によって温泉を11種の泉質に分類し、それぞれにつき入浴と飲泉によって改善が見込まれる病気や症状を示している。
温泉施設は基準に従って効用を決め、利用を避けた方が良い「禁忌症」や成分の分析結果とともに知事に届け出て、医師の意見を聞いた上で利用者に示している。
だが、列挙された効用には、湯治場の経験則に沿っただけで医学的根拠が乏しいものも多く「温泉成分が効いたのか、単にリラックス効果などで好転しただけなのか、検証が不十分なケースもある」(環境省自然環境局)という。「温泉療法」の著者で元群馬大医学部付属病院草津分院長の久保田一雄氏も「温泉は、薬のように試験で効用を確かめることが難しく、研究も進んでいない。同じ泉質でも、温泉地によって成分が微妙に違う」と指摘する。
このため同省は、温泉療養の研究者や医師らで作る「日本温泉気候物理医学会」(東京都中央区)に調査を依頼。動物実験などに基づいて温泉の殺菌、温熱効果を確かめた学術論文を集めたり、現地で聞き取り調査を行ったりして、温泉の影響を詳しく調べている。
最近の研究では、温泉入浴が良くないとされる心疾患患者も、心臓に負担がかからない適切な方法で入浴すれば、血管が広がり心機能が改善するなどの、新しい成果も発表されており、同省では、こうした検証報告をもとに適応症と禁忌症の新基準をまとめる。
また「効能」「適応症」といった用語についても、「温泉は薬のように即効性はない。1回の入浴で効くとの誤解を与える恐れがある」として、言い換えを検討する。
同学会で調査に携わる東威(あずまたけし)・聖マリアンナ医大客員教授(リウマチ学)は「温泉療法は、痛みや体のこわばりなどを和らげるが、病気を完全に治すものではない。利用者に分かりやすく正確な情報を提供する必要がある」としている。