[無資格助産]「産科医療の現状を問う起訴猶予」
産科医療の現状を問いただす判断だろう。
横浜市の産婦人科「堀病院」が、助産師資格がない看護師や准看護師に助産行為をさせていた事件で、横浜地検は元院長らを起訴猶予とした。
横浜地検は「処罰は相当でない」とした理由として、背景にある「産科医療の構造的問題」を指摘している。
医療現場では助産師不足が深刻だ。多くの産科で助産師が確保できず、看護師が無資格のまま助産行為をしているのが実情である。厳密に違法性を問えば、産科医は続々と摘発されるだろう。
無論、堀病院には問題がある。年間約3000人もの分娩(ぶんべん)を手がけていたのに助産師は6人しかいなかった。
これほどの規模の産科には通常、数十人の助産師が要る。大都市にあって「出産数日本一」と宣伝する著名病院が、助産師を集めようとして集まらなかったとは思えない。
だが、問題の根源をたどると、制度とその運用の不備に行き着く。厚生労働省は検察から厳しいボールを投げ込まれたと受け止めるべきだ。
今回の事件で、直接の問題となったのは、看護師が「内診」を行っていたことだ。陣痛が始まった女性の子宮口の開き具合などを調べる助産行為である。
日本産婦人科医会は「内診は診療の補助に過ぎず、医師の指示で看護師が行える」と解釈していたが、2002年に厚労省は「医師か助産師でなければできない」と通知した。
しかし、現実には、従っていない産科医が多いと見られる。
助産師は全国で約2万6000人いるが、日本産婦人科医会の調査では、必要数に7000人近く足りない。
この状況では、通知を必ず守れというのは難しい。厚労省も実態を知りつつ黙認してきたのではないか。
解決の近道は、意欲ある看護師が助産師の資格を取りやすくすることだ。働きながら資格がとれるように、夜間の助産師養成所を作る必要がある。
資格を持ちながら職を離れている「潜在助産師」が3万人近くもいる。人材バンクや再研修制度を整えるなどして復職を促すのも大事なことだ。
こうした増員策の効果が出るまでは、危険度の少ない助産行為を看護師に認めることを検討していいのではないか。現実に即したルールにすべきだ。
助産師の体制が充実すれば、通常のお産は助産師、難しいお産は産科医、という分担も進むだろう。
産科医療全体を見直す契機である。