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2007年01月31日(水) 00時00分

利益操作の意図共有 日興不正調査報告書 東京新聞

 「関係者によって組織的に進められた」。日興コーディアルグループの不正会計問題で、原因究明を進めてきた特別調査委員会は、日興旧経営陣の一部を名指しで“断罪”。予想外の厳しい調査結果により、現経営陣が旧経営陣に損害賠償を求めるだけでなく、刑事告訴する展開すら視野に入る。衝撃的な調査報告書を緊急検証する。 (経済部・日興問題取材班)

 東京・日本橋兜町にある日興グループ本社で行われた記者会見。日野正晴委員長が率いる特別調査委の口調からは、問題の真相にギリギリまで近づいた確信がにじみ出ていた。

 「(日興は)厳しい社会的批判を受けても致し方がないだろう」(日野委員長)

 「抜本的な改革をやらなければこの会社は変わらない」(高巌委員=麗沢大学大学院教授)

■“調書”全120ページ

 厳しい口調を裏付けるように、この日公表された全百二十ページの報告書は、不正に関与した疑いのある旧経営陣の責任を一人一人明記。まるで検事調書のようだった。

 報告書はまず、同グループの有村純一前社長について「本件行為の全容を知りうる立場にあり、積極的関与の疑いをぬぐい去ることはできない」「重大な経営上の責任がある」などと指摘。同グループの山本元・前最高財務責任者に対しては、子会社の連結外しに関し「同人以外にこれを意思決定できる者はいない」と断定した。

 不正会計の舞台ともなった同グループ傘下の投資子会社、日興プリンシパル・インベストメンツの平野博文前会長については、「連結利益を増大させる行為について、積極的な関与の疑いも否定できない」とした。

 さらに「当調査委員会の結論」として「(連結外しなどの)行為は、それ自体が独立して不当な行為ではない。(だが行為は)利益操作を行おうとする意図の下につなぎ合わされたパーツであり、意図を共有する関係者によって組織的に進められた」と言い切った。

 約五十万七千件。調査委が分析対象として取得した同グループ関係のメールの数だ。四人の調査委が活動を始めたのは昨年十二月二十八日。終了した今月二十九日まで元日と二日を除く連日、同グループ本社の一室にこもって解析作業は続けられた。

■不自然な削除

 国広正委員(弁護士)は「例えば、ある期間だけ平野さんのメールだけがゼロだった。つまり削除されていた。平野さんに問いただすと『サーバーを変えたから』という。不自然だ」と証言する。調査委は不正に関与した疑いが濃い幹部の、不正隠しと疑われても仕方がない行為まで突き止めていた形だ。この執念ともいえる調査により、旧経営陣の組織的関与の疑いは日に日に濃厚になっていった。

 実は、報告書公表前、証券市場などでは「調査委は“お手盛り”報告書しか出せないのでは」といった声が漏れていた。日野委員長は日興の元監査委員会顧問で、国広委員も日興の元法務助言者だったからだ。市場では「これで幕引き」の雰囲気が漂っていた。だが元検事、弁護士らで構成された調査委は「ルール違反は見逃さない」という意識で統一されていた。

 衝撃の報告書の出現で状況は一変した。

 不正事件発覚後に就任した同グループの桑島正治社長は、旧経営陣の刑事・民事上の責任について「調査委の結論が出た後、判断する」と述べている。意図的、組織ぐるみと認定した分厚い報告書を突きつけられ、桑島社長はどう行動に出るのか。さらに監督官庁である金融庁の受け止めは−。兜町周辺には早くも「司法」「捜査」といった単語が飛び交い始めている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070131/mng_____kakushin000.shtml