「女性を機械に例えることは『産めよ殖やせよ』にも通じ、女性の人権を踏みにじるものだ」
民主、共産、社民の野党3党の女性議員16人は29日、国会内で柳沢氏と会い、厚労相辞任の要求書を手渡した。柳沢氏は「女性の存在を否定するような発言をして傷つけたことは謝る」と平身低頭だった。
これに先立つ衆院本会議では民主党の松本剛明政調会長から「驚き、嘆き、憤っている」と質問され、「国民の皆様、特に女性の方々におわび申し上げる」と陳謝。首相も小沢代表への答弁で「誤解を生じないように厳しく注意を促した」と発言せざるを得なかった。
労働法制など重要法案を担う柳沢氏の失言だけに、野党は「辞任に値する発言だ」(市田忠義共産党書記局長)と勢いづく。参院選に向け、国会の滑り出しで主導権を握る可能性も出てきただけに、小沢氏は29日の会見で珍しく多弁だった。
「どう釈明しても済む話じゃないだろうね。ちょっと国務大臣としてどうかな、ということになるんじゃないかな」
政府・与党内の空気は冷ややかだ。
高市男女共同参画担当相は国会内で記者団に「私は子供をほぼ授かれない体なので、機械なら不良品になっちゃう」と不快感をにじませ、猪口邦子前少子化担当相も「発言は完全に否定されなければならない」。
女性だけではない。自民党の中川昭一政調会長は記者団に「極めて不適当。私から見てもびっくりするような言葉だ。少子化対策とかあり、担当大臣の発言はマイナスだ」と切り捨てた。
首相官邸は「(厚労相)更迭という話ではない」(内閣官房幹部)と防戦するほかない。内閣支持率の下落が続く中、昨年末の佐田行革担当相に続いて、閣僚辞任の事態だけは避けたいからだ。しかも格差是正で民主党に攻め込まれるなか、少子化対策と労働法制はそれを押し返す材料なのに、担当閣僚の責任問題が浮上すれば混乱に拍車がかかる。
29日に少子化対策の検討会議を設置すると発表した塩崎官房長官は「発言は不適切だが、直ちに訂正された。検討会議の主要メンバーとしてやってもらう」とかばった。首相も29日夜、記者団に「本来、大変高い見識をもった方ですし、今後職務に専念して頂くことで本人の人柄についてもだんだん国民の皆さまに理解して頂けるだろう」と語った。
◇
問題は「柳沢発言」にとどまらない。
「私の発言で、ご迷惑をおかけしているかもしれません」。29日午前の自民党国会対策委員長室で、下村博文官房副長官は与党国対幹部らにこう切り出した。
下村氏は28日のテレビ番組で、首相肝いりの教育関連3法案について「成立してもらいたいとは思うが、柔軟に考えてもいいのでは」と発言した。夏の参院選を控え、国会日程が窮屈なことをにらみ、成立しない場合の予防線をはったつもりだったが「腰砕け」の印象はぬぐえない。
公明党の漆原良夫国対委員長は29日、記者団に「首相は今国会を『教育再生国会』と言っているからメーンテーマのはず。出す前から3本通すのは難しいと言うんじゃ、何なんだという話になる」。結局、安倍首相は同日夜、記者団に「当然、成立を期して提出を急いでいきたい」と語り、発言を修正した。
就任後、ずっと続いているのが久間防衛相の米政府批判だ。27日の長崎県諫早市の講演では在日米軍普天間飛行場の移設案に絡んで米国に対し「偉そうなことを言ってくれるな」と発言。久間氏は24日にもイラク戦争開戦の米国の判断を「間違っていた」と批判し、26日に塩崎氏が注意したばかり。米政府はイラク発言について日本政府に照会、首相が「外交の要」と重視する日米関係に影を落としかねない。
首相が重視する課題に自ら水を差す発言が政府内から相次ぐ非常事態に、塩崎氏は29日の記者会見で「決して言いたい放題を許している内閣ではない」。
こうした状況の中、今度は逢沢一郎衆院議院運営委員長の公選法違反の疑いも浮上した。こちらも与野党の利害を調整する立場だけに、国会運営への影響は深刻だ。
首相は同日の自民党役員会で「緊張感を持ってやってほしい」と語った。近年の選挙では、何を争点にするか、主導権をとった方が有利なのだが、首相自らが政権課題を設定しても、政府・与党内の足並みの乱れがすぐに表面化する悪循環から抜け出せない。首相の求心力の低下が、政権のタガの緩みにつながっているのも確実だ。
民主党幹部は次々、攻撃材料が出てくる現状に、思わずこう漏らした。「ぼろぼろだ。安倍政権はもうダメだな」