品切れ騒動が収まり、スーパーには普段通り納豆が並んでいた=23日午後、大阪市内で
「食べてヤセる!!!食材Xの新事実」。番組が納豆を特集したのは今月7日だった。当日の視聴率は関東地区14.5%、関西地区17.4%。名古屋地区19.0%。数々のブームを生んだ人気番組だが、翌日以降の騒動は空前だった。
堺市の会社員の女性(44)は番組を見た後、スーパーで納豆15パックを一気に買い込んだ。
ダイエットへの願望は強い。納豆は毎朝1パック食べていたが、番組で朝晩1パックずつ食べれば、血中イソフラボン濃度が高まるという実験データが紹介されたのを見て、量を増やした。「『これしかない、やらなくちゃ』と自分で盛り上がった」
だが、番組の実験では、血中濃度を測定していなかった。
別の健康情報番組の制作経験があるディレクターは「テーマに困ったらダイエットというのは制作現場の常識」と打ち明ける。視聴率が安定してとれるからだ。がんや糖尿病などの医療テーマだと、健康被害が起きたら大変なことになる。そういう点でも都合のいい題材だという。
情報番組の中身を検証するホームページを開き、昨年5月に「また『あるある』にダマされた。」(三才ブックス)を出版した化学メーカー研究員鷺(さぎ)一雄さんは「起こるべくして起こった」と冷ややかに話す。
翌週14日放送の「あるある」はがん予防を特集し、豆の理想的な摂取量は1日30グラムと説明した。「前週の放送通り、朝晩1パックずつ納豆を食べればもう超えてしまう。明らかに矛盾している」
納豆メーカーでつくる全国納豆協同組合連合会(東京)は今回の問題に「虚偽の報道は大変遺憾だ」とコメントした。
ただ、番組の「効果」に期待していたのも事実だ。同連合会は昨年12月21日に、「あるある」が1月7日に納豆のダイエット効果を特集することを会員のメーカーにファクスで告知した。この情報は、取引先のスーパーにも伝わった。
大阪市内の中堅スーパーの仕入れ担当者は昨年末、メールで知らされた。「また売れるな」と思い、仕入れ量を若干増やした。
文書を作ったのは、同連合会の広報担当者。昨年秋、制作側から取材を受け、参考になりそうな学会の資料を渡していた。「テレビの影響力は大きく、放映予定を早めに教えてほしいと、メーカーと小売店から強く要望されていた」と言う。
メーカーからスーパーへの情報には、納豆を使ったトーストや包み揚げのレシピが番組で紹介されることも触れられていた。「一緒に取り上げられる食材も必ず売れる」との経験からだ。
「がんを防ぐ」「やせる」「若返る」。こんな表現でテレビの健康情報番組が取り上げ、ブームが起きたのは納豆ばかりではない。
05年にはやはりダイエットに効くとされた寒天がブームとなった。店頭では品切れが相次いだ。原料のテングサは高騰し、入札価格が2倍近くに跳ね上がったこともあった。
健康番組の問題点を指摘する本を出版している神奈川県藤沢市のクリニック院長、三好基晴さんは「生活や環境の不健康さに誰もが不安を抱えている心理につけ込み、安易な解決方法を提示している。人の命にかかわる情報を面白おかしく見せるのは許されない」と警告する。「効果をどう測定したのか」「どうして副作用に触れなかったのか」。関西テレビに何度も質問状を送っているが、回答が来たことはないという。
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健康ブームを演出してきた看板番組で、なぜ視聴者を裏切る捏造(ねつぞう)が起きたのか。その背景を報告する。