総務相は、支払い義務化を盛り込んだ放送法改正案を通常国会に提出する方針。ただ徴収を強化するだけでは視聴者の理解を得られないと判断、NHKに値下げを求めたとみられる。
受信料は値下げしたことがなく、実現すればインパクトは大きい。放送業界内では「総務相は、統一地方選、参院選と続くので、世論に受ける値下げを持ち出してきたのでは。義務化ではなく、まず値下げが念頭にあるのだろう」「総務相は、安倍首相初の通常国会で話題づくりを狙ったのではないか。存在感を示そうとしている」といった憶測が飛び交っている。
ただNHKは、総務相の値下げ要請に簡単には応じられない。一連の不祥事の影響で減少した受信料収入は回復しつつあるとはいえ、不祥事以前の額には遠く及ばないからだ。
NHKは収入不足から「(二〇一一年の完全デジタル放送化などに向けた)設備投資を繰り延べている」(NHKの石原邦夫経営委員長)状態。
値下げすれば、大河ドラマなど大型番組の制作にも影響が出かねない。特に来年は北京五輪を控えており、制作費確保は最優先課題だ。
また局内には、総務相の要請で値下げした前例をつくれば、今後も、ことあるたびに値下げを要求されかねない−との危機感も漂う。
NHKは、〇七年度の受信料収入を六千百三十億円と見込んでいる。総務相は「支払い義務化により受信料の支払率は、現在の70%から80−85%に上昇し、収入は一千億円前後増える」と試算するが、NHKは「義務化といっても法律の条文を書き換えるだけ。それで収入が飛躍的に増えるだろうか」(中堅職員)と懐疑的だ。
とはいえ、NHKにとって現在の契約義務から支払い義務化に踏み込むのは長年の悲願だ。ただ総務相は義務化と値下げはセットと考えており、NHKが値下げに応じなければ、総務相は義務化を見送るかもしれない。そうなるとNHKにとっては元も子もない。
さらに今、NHK改革をめぐっては音楽、芸能・スポーツ部門の分社化などの案が浮上。NHKは、組織改革にも消極的で、値下げ問題で総務相と通常国会冒頭から対立するのは得策ではないと考えているようだ。
NHKの橋本元一会長は「放送法改正論議の中で意見を申し上げたい」と述べており、同局の厳しい財政状況を国会で説明し、値下げ回避の方向を模索する構え。
日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日会長)は、苦境に立たされるNHKに助言する。
「NHKは今、与野党からも視聴者からも信頼されていない。それだけにNHKから(受信契約者が何割を超えたら、その段階で料金をこう変更するという)メッセージを出すべきだ」
<メモ> NHK受信料の料金設定 料金を決定するのはNHK。NHKの収支予算案を作成するNHK自身が、収入源である受信料の料金を決定する。その法的根拠が放送法37条。「NHKは収支予算を作成する」「受信料の月額は、国会が収支予算を承認することで定める」などと規定している。
受信料の歴史 受信料は1950年の放送法施行時、月額35円(ラジオ)だった。3年後にテレビ料金が新設され、以後、値上げを繰り返し、現在は月額1345円(地上波カラー契約、口座振り替え)。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070123/mng_____kakushin000.shtml