安倍首相は19日、「共謀罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案について、25日召集の通常国会で成立を目指すよう、長勢法相らに指示した。
国際条約で定められたテロ対策を実現したいとの思いが強いと見られる。
しかし、野党が激しく反対した法案だけに、与党には、夏の参院選への影響を懸念する声も根強い。首相の指導力が問われそうだ。
国際組織犯罪防止条約は2000年の国連総会で採択された。テロや組織犯罪の防止などを目的に、共謀罪の設置を義務づけている。批准国は昨年末現在で130か国に達しているが、日本は条約に署名したものの、批准していない。条約を担保する同法案は与野党の議論がかみあわず、これまで7回も継続審議になっている。
「国際組織犯罪防止に関する条約上の義務を果たさなければいけない。その観点から、党とよく相談して提出するよう(法相らに)指示した」。首相は19日昼、記者団にこう強調した。
公明党幹部は首相の狙いについて、「日本は来年の主要国首脳会議(サミット)で開催国を務める。首相は、サミットのテロ対策のためには法整備が不可欠だと判断しているのではないか」と語った。自民党の二階俊博国会対策委員長も首相の考えを後押ししている。二階氏は昨年末、法務省や自民党の衆院法務委員会理事らに対し、野党や世論の理解を得るため、法案修正を検討するよう指示した。
野党はこれまで、「適用範囲があいまいで、言論の自由が侵されかねない。捜査当局が乱用する恐れもある」などと反対。「労組の飲み会で『社長をつるし上げよう』と言っても、適用されるのではないか」といった話も、まことしやかに語られていたからだ。
与党内では、共謀罪を適用する犯罪の数を絞り込む修正案が取りざたされている。しかし、「具体的にどのような表現で修正を行うのか、良い知恵はない」(自民党幹部)のが現状だ。外務省は「条約批准には、共謀罪の対象犯罪を懲役4年以上(罪種600超)の犯罪を対象にすることが必要」との立場をとっている。同省首脳は19日、「条約の解釈を変更することはあり得ない」と明言した。
与党内には、参院選を控えた通常国会での混乱を心配する向きも多い。実際、昨年の通常国会では、自民党の方針が揺れ、細田博之国対委員長(当時)が民主党案を丸のみすると表明する一幕もあった。
自民党の参院幹部は「法案に対する国民の支持は広がっていない。通常国会での採決は絶対に無理だ」と語り、公明党幹部も「通常国会で無理に通す法案ではない」と漏らした。首相周辺は「首相は法案の成立をあきらめたわけではないという姿勢を示しただけだ」と語り、首相発言の軌道修正を探る動きも出始めている。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070119i114.htm?from=main1