踊るDJ OZMA
「視聴率、上がってるといいんですけどねえ。紅白、ほんとにおもしろいんで、とにかく見てほしいと思って」。出演後のDJ OZMAは、生放送でハプニングを起こした興奮を抑えきれない様子だった。
「不測の事態」はなぜ起きたのか。NHK側は11日の会長会見で「最終リハーサルの衣装(ビキニ)が本番の衣装という認識でいた」と説明。画面を切り替えなかった理由は「紅白のカット割りは細かく決めてあり、突然の事態に対応できなかった」とする。
会見前日の10日には、OZMA側はNHKに謝罪文を提出。「リハーサルを終えて、インパクト不足、サプライズ不足という思いがあった」と、独断でお騒がせパフォーマンスにいたった理由を説明したという。
とはいえ、OZMAは「イケイケ」「ヌゲヌゲ」などエッチな歌詞と踊りが人気の歌手。普段のライブで今回同様の裸体風ボディースーツを使っており、OZMAの歌を担当した2人の現場のディレクターはそれを知っていたという。
本人は出演者発表会見でも「脱ぐ」と公言。NHKはリハーサルを非公開にした。その理由は宙づりなどの演出を隠すためだったというが、ハプニングを期待させた印象は否めない。
「(本番の衣装を)本当に知らなかったなら制作者としての業務怠慢に等しい」というのは、テレビプロデューサーで千歳科学技術大教授の碓井広義さん。
「過激な芸風も含めて、OZMAを出演者に選んだはず。彼が『これじゃインパクト不足』と思ったのは自分が何を期待されているかを考えたからだろう。そう思わせた責任はNHKにもある」と指摘する。
視聴者からNHKへの苦情は、これまでに約1800件に上る。「ボディースーツとはいえ子どもの見ている時間にふさわしくない」「ふざけすぎ」といった意見が多いという。
一方、本紙テレビ欄への投稿の中には、「紅白はお祭り。家族で指さして大笑いすればいいだけの話。アナウンサーがあのボディースーツを着て出て『皆さん、今のはコレでした』と言うくらいのしゃれっ気があれば」(福岡県の主婦・52歳)という声もある。
服部孝章・立教大社会学部教授は「民放のベッドシーンの方がよほどテレビにふさわしくない。よく見れば裸ではないとわかるわけで、NHKの番組だからといって目くじらを立てるのは、硬直した反応ではないか」と疑問を投げかける。
放送時間や番組の性質、場面によって「裸体表現」などの扱い方や演出の意味合いは違ってくる。OZMAのパフォーマンスについて、NHKは「今回の紅白のテーマにはふさわしくなかった」という見解だが、放送法に基づくNHKの番組基準に抵触するものではないとしている。
◇米国では…数分遅れで放送する手法に
生放送での裸体表現を巡るハプニングでは、04年、米国で中継中にジャネット・ジャクソンが胸を露出させたことが問題になった例がある。社会問題化し、テレビ局は米連邦通信委員会から罰金を科された。その後、米国では生放送番組でも、トラブルが起きた時に対処できるように、数分遅れで放送する手法が広まったといわれるが、対策として妥当かどうか意見は分かれる。
NHKの再発防止策についても碓井教授は「テレビの演出とは何かという議論がない。単にリスク回避のために覚書を交わすという対応は、事前の検閲のような印象も受ける。テレビ界の表現の幅を狭めはしないか」と話している。