ブリの照り焼き、マグロと山芋のあえ物、手製のソースをかけたトマトサラダ——。
ダイニングバーの店長だった柏倉亮さん(25)にとって、料理はお手の物だ。夫婦で迎えた初めての正月。親元でのんびりと過ごした後、4日の夕食は、亮さんが千葉県内の自宅で腕をふるった。
「やっぱりおいしいね」。生後3か月の長男、零音(れおん)ちゃんを寝かしつけたイラストレーターの妻、直世さん(23)は目を細めた。
二人は結婚5か月。直世さんは、妊娠8か月でウエディングドレスをまとった。
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「国民生活白書」(2005年版)によると、妊娠をきっかけに結婚に踏み切るカップルは、1980年には20歳代前半で5組に1組(20・1%)しかいなかったが、00年になると58・3%に。柏倉さん夫婦の世代は、6割が「できちゃった婚」だ。全体の平均も、12・6%から26・3%に倍増している。
晩婚化が進む一方で、子どもの存在が結婚を決断させる大きな要因にもなっている。「社会が結婚前の交際や同居に寛容になった」。白書は指摘している。
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亮さんと直世さんは、千葉県立高校の先輩と後輩の関係で、交際を始めて2年後の05年9月、ともに実家を出て同居を始めた。二人の親も「社会人だから」と反対はしなかった。
亮さんが「今はこのままでいいけれど、いずれ結婚したい」と考える一方で、直世さんは「自分たちの気持ちが大事」と、結婚にこだわりはなかった。
しかし、わずか3か月後。妊娠がわかって、直世さんの気持ちに変化が生じた。「家族3人で周りから温かく見守られたい」。亮さんも賛成した。
ウエディングドレスが着られるギリギリのタイミングだった昨年7月末に結婚式を挙げ、その1か月半後、零音ちゃんが生まれた。
できちゃった婚が急増する一方で、両親が婚姻届を出さずに誕生した非嫡出子(婚外子)の割合は、国際的には極めて低い2%前後。内閣府の「少子化社会白書」(04年版)によると、スウェーデンは56・0%、デンマークは44・9%にも上る。
背景には、戸籍や相続上の取り扱いで婚外子が不利になる日本の事情がある。結婚後、直世さんは「子どもは法律的に認められた方が生きやすい」と改めて思っている。
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子育てをしながら、どのように生計を立てるのか。直世さんは大学在学中から、イラストや恋愛エッセーを手掛け、旧姓の「斉田」で、本も出版している。直世さんの年収は、亮さんの2倍。亮さんは12月末にダイニングバーの店長を辞めて、一切の家事に専念することにした。
「3年半の片思いがようやく実った」。高校の卒業直後から思い続けた亮さん。今の生活は「妻に養われていると見られないか」という抵抗はあったが、「支えることができて本当に満足している。しばらくは、自分の店を出すという夢のために、料理の腕を磨くつもり」。
直世さんも、零音ちゃんをあやしながら同じ寝相で眠りに落ちた亮さんを見ると、「大切な人」と胸がきゅんとする。
4日は、亮さんの“専業主夫”の初日。二人は「後先考えていないと言われるかもしれない」と笑うが、未来はしっかりと見据えている。
「恋をして、子どもを授かって、結婚もして。今は毎日がとても幸せ」
男性にこだわり…子どもできたら「すべきだ」内閣府の「国民生活選好度調査」(2005年)では、15〜79歳の男女の過半数が、「子どもができたら結婚すべきだ」と回答した。男性は女性より割合が高く、男性の方が「法律婚」へのこだわりが強い。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/rensai/20070107ok02.htm