NHKは、大阪放送局制作の2話構成のドラマ「スロースタート」を今月27日と来月3日、いずれも午後9時から放送する。ニートや引きこもりの若者たちを、社会生活に呼び戻す活動を続けるNPO法人の奮闘を描く、硬派の作品だ。(旗本浩二)
仕事をせず、教育も職業訓練も受けていない若者を意味するのが「ニート」。一昨年の労働経済白書では約64万人を“若年無業者”とし、事実上のニートと見ている。一方、自宅に閉じこもったままの「引きこもり」は実態把握が困難だが、100万人とも200万人とも言われている。
こうした人々を支援する実在の団体の活動を描いた荒川龍原作「レンタルお姉さん」を原案に、勝田夏子ディレクター、脚本の浅野有生子らが実際の活動を取材してドラマ化した。
前編は、引きこもりになった大学生(金井勇太)の心を、NPO法人「スロースタート事務局」のスタッフ未散(水野美紀)が開こうとする物語。後編では、ニート化した元営業マン(萩原聖人)が、未散に働く理由を問う。
勝田ディレクターらは、元引きこもりの若者たちが集まるパーティーに参加して、実体験を聞き出した。だが、今も引きこもりを続ける人にはなかなか会えない。勝田ディレクターが忘れられないのは、部屋から出てこようとしなかった25歳の男性と偶然、玄関先で鉢合わせしてしまった時のこと。「10年以上外出せず、能面のように表情が消えていた。病気ではないが、感情がなく、何かが彼の中で死んでいた」
遠藤理史チーフプロデューサーは「訪ねて行って本人と話をするだけでも効果がある」と力説する。それは、ドラマの中でスロースタート事務局代表(近藤正臣)が、未散に語りかける「一歩進んで二歩下がったとしても、動いてるのは三歩や。要は動くことが大切なんと違うか?」とのせりふにも表れている。
主人公の未散を演じた水野自身、これまでニートや引きこもりの人々を、「怠けたり、すねをかじって親に迷惑をかけたりするダメな人たち」という風に見ていたと打ち明ける。劇中にある「ほっといたらええ」という同僚のせりふと同じように、突き放した見方だった。だが、ドラマに出演して「わざと引きこもっている人はいない」と思えるようになったという。
取材を通じて、「一度の失敗を一生の不覚のように断じ、やり直すことに寛容でないこの国の何かがおかしい」と痛感した勝田ディレクター。「自分と違う相手を排除するのでなく、相手の存在を認め、言い分を分かろうとすることが大切」と訴える。
ニートや引きこもりの人だけでなく、人間関係に悩むすべての現代人にヒントとなりそうなドラマだ。