「こまねこ」は、こま撮りが大好きなネコ“こまちゃん”を主人公につづられる、五つのストーリーからなる。テーマは「ものづくり」。一話目の「はじめのいっぽ」では、こまちゃんが8ミリカメラを回し始めたところに、ハエが飛んできて撮影がメチャクチャになるというアクシデントが起きるなど、コミカルに描かれている。
原作・監督・キャラクターデザインを担当したのは、NHKの人気キャラクター「どーもくん」を生み出したアニメーション作家の合田経郎さん。合田さんが製作した「こまねこ」の短編人形アニメーション版(5分)が、二〇〇四年二月から一年以上にわたり東京・渋谷のシネマライズで上映され、「もう一度みたい」などと反響が大きかったことから、長編製作の運びとなった。
〇五年六月から撮影を開始、翌年三月に完成したが、撮影だけで八カ月半ほどかかったという。製作費は「俳優を使っているわけでもないのに、通常の日本映画を一本作るのと変わらない」(宣伝部)。合田さんは「部屋の隅々の小物など画面に映っているものはすべて手作り。手間暇かかることだらけ。そこが、人形アニメーションの大変さでもある」と語る。
特に撮影中、二十五センチ前後の小さな人形を少しずつ動かす作業は緻密(ちみつ)で気が遠くなるほどだったとか。人形たちの微妙な心の動きを表現するのに苦労したというアニメーターの峰岸裕和さんは「表情をつくるのに、人形のまゆ毛の動かし方やまぶたの閉じ加減、顔の角度など細かいところまで配慮した。寂しい気持ちを表すだけでも、どこまで顔を下に向けようか、顔の向き加減によってライティング(照明)をどうするのかだとか考える。もともと表情のない人形で表現するのは難しい」と振り返る。まぶたに関しては六種類も用意し、「目を開けたところから全部閉じたところまで、まぶたを何種類かそろえた。それを使って、まばたきなどいろいろな表情をつくっていった」と峰岸さん。
また、この映画は、「にゃー」などと声を発するだけで、セリフがないのも特徴。合田さんは「セリフがないからこそ幅広い人に楽しんでもらえるものになったと思うし、国境も年齢も越える作品に育ってくれたらうれしい」と願いを込める。
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人形アニメーションには欠かせないこま撮りは、昔から使われている手法だ。最近のこま撮り映画といえば、英国のクレイアニメーション「ウォレスとグルミット」や米国の人形アニメーション「コープスブライド」など、日本でも公開された外国作品が記憶に新しい。合田さんによると、「こまねこ」は、日本の長編劇場版映画としては、サンリオが製作した人形アニメーション「くるみ割り人形」(1979年公開)以来のこま撮り作品という。
人形アニメーションにかかわり三十年という峰岸さんは、その魅力を次のように力説する。
「手間のかかる人形アニメは、コンピューターグラフィックス(CG)アニメの台頭でなくなる危機にさらされたときがあったが、CGアニメでは決して得られない質感や温かみを画面に出せる魅力があるからこそ、なくならないで済んだのだと思う。『こまねこ』をきっかけに人形アニメの世界に興味を持ってもらいたい」
※ワーナーマイカル系列などで全国公開中。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20070110/mng_____hog_____000.shtml