「メールしてすぐに返事が来ないと不安」。東京都内の私立大四年の女子学生(22)は暇さえあれば、携帯をチェックする。一日二十件ぐらいのメールを送受信しているが、何もすることがないと携帯電話を見ている。「携帯がない生活は考えられない」という。
名古屋市内の私立大に通う男子学生(21)は通学途中、携帯を忘れたことに気づき、家まで取りに帰った。「財布がなくても友人に金を借りればいいが、携帯がないと友人と連絡が取れないので不安」。携帯の通話料金は一カ月一万五千円ぐらいだが、月五万円になる友人もいるという。
NTTドコモのモバイル社会研究所(東京都千代田区)の一昨年の調査では、「携帯電話を忘れると不安」と感じる人は、二十歳未満では54・2%、二十歳以上−二十五歳未満も50・5%と半数になる。
若者の携帯事情に詳しい椙山女学園大学の加藤主税教授(言語学)は、若者が携帯を手放せない症状を「ケーチュー」と名付けた。携帯中毒の略で、「ニコチンやアルコールと同じ」というわけだ。
症状としては「風呂やトイレに持っていく」「着信音の幻聴が聞こえる」「なるべく(電波の)圏外の場所に行きたくない」「メールをして返事が来ないともう友達ではないと思う」などが挙げられる。
「今の二十歳ぐらいの世代は高校時代から携帯を持ち始め、生活の一部になっている。大人が中毒だといっても、彼らには普通だ」と加藤教授は世代間の意識のギャップを指摘する。
携帯が普及し始めたころ、大学では授業中に携帯が鳴ったり、会話をすることが問題になった。加藤教授は、最近の学生は授業中、堂々と机の上に携帯を置くという。電話で話す学生はいないが、メールが着信すると、即座に返信する。
ケーチューの若者が増えると、時と場所を選ばず携帯を使い、公共の場所でのマナーが問題になる。
成人式では、多くの自治体で式典中は携帯電話の使用を慎むよう注意をしているが、効果は疑問だ。昨年、成人式に出席した女性(21)は、式典の最中でも友人たちがメールを打つ姿を目撃した。「来賓のあいさつで『会場で携帯の画面が光っていますが、今日から大人になったのですからマナーは守りましょう』と注意されたけど、誰も聞いてなかった」と振り返る。
法政大学教授で教育評論家の尾木直樹さんは、携帯に依存する若者が増える現状を危ぶむ。「学生と話していても、携帯にメールの着信があると、まずは携帯を確認する学生が増えている。バーチャルな世界が、現実の関係より優先されている。リアルな関係が築けなくなっている」
尾木さんは「携帯を使うなとは言わない。友人、家族と過ごす時間を増やし、直接ふれ合う人間関係を大切にしてほしい」と呼びかける。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070108/ftu_____kur_____000.shtml