軍服を着て教官の指導を受ける少年たち=北京市郊外で
北京南郊にある中国人民解放軍の新兵教育施設。正門脇で兵士が銃を手に厳しい視線を送る。
「話をするな」「頭をまっすぐ上げろ」。訓練場で教官の指示が飛ぶ。迷彩服や軍服姿の若者が整列して白い息を吐きながら、歩行や直立姿勢の練習を繰り返す。
訓練を受けるのは「ネット中毒」で学校に行けなくなった少年たち。軍施設内にあるネット中毒治療施設「青少年心理成長基地」の入所者だ。軍病院の付属機関で、05年3月に専門治療機関として開設された。最大の特徴は、治療に軍事訓練を取り入れていることだ。
この治療法を提唱したのは施設長の陶然軍医。「ネット中毒の子どもには生活に規律を持たせることが最も大切。軍事訓練が最適だ」と話す。
訓練は集団での整列や歩行など、指示通りの行動が求められる基礎的なものだが、近くの訓練林で本物の銃を使った射撃練習もある。「ゲームでは銃を撃ちまくり簡単に人を殺す。本物の銃を扱うことで現実と向き合わせるのが目的」という。
外部との接触は一切禁止。毎朝6時起床、40分間の体操。朝食後、2時間の軍事訓練がある。午後は心理カウンセリングなどを受ける。重度の中毒者には薬物の投与も。
入所者は13〜17歳の約60人。2年足らずの間に全国から計約1300人が入所した。9割が男子だ。1〜3カ月で「8割が中毒を克服した」と、陶軍医は胸を張った。
1カ月の入所費は9000元(約13万5000円)。都市住民の平均月収の8倍を超え、入所者は裕福な家庭の子どもが多い。親に付き添われて診断を受け、入所するケースがほとんどだ。
高校3年の李君(17)は山東省から来た。ネットカフェで過ごす時間が長くなり、ついには40時間連続でゲーム。昼夜が逆転し、学校に行けなくなった。「訓練で頭がはっきりした気がする。帰ったら規則正しい生活がしたい」と言う。
江蘇省の中学3年の郭君(15)は両親とも公務員。「健康診断に行くと言ってだまして、僕を連れてきた」と話す。「勉強に疲れて1週間学校を休んで、ちょっとゲームをしていただけなのに……。僕を理解してくれていない」と訴えた。
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■ネット中毒の青少年にかかわる最近の事件報道■
▽06年5月 天津市で13歳の少年がネットカフェで36時間連続して遊んだ後に自殺したのは「ゲームの影響だ」として、両親がゲーム会社に損害賠償請求
▽5月26日 清華大学の20歳の男子学生が、両親に無理やりネット中毒治療施設に入所させられたことを理由に自殺未遂
▽10月6日 黒竜江省で16歳と18歳の少年がネットカフェで遊ぶ金欲しさに廃品回収業の男性を殺害し、所持金を奪う
▽10月21日 福建省でネットカフェで遊ぶ金を母親からもらえなかったため、19歳の少年が自殺
▽11月21日 陝西省で17歳と15歳の兄弟がネットカフェで遊ぶ金を手に入れようとして近所の11歳の少年を誘拐し殺害
▽12月11日 河北省でタクシーの運転手を殺して車を奪い、ネットカフェに乗り付けて遊んでいた18歳の少年を逮捕