95年の阪神大震災では81年以前のマンションに倒壊被害が集中したとされる。不動産情報サービス会社「東京カンテイ」によると、旧耐震の分譲マンション(05年度末)は全国に2万2659棟約146万戸分あり、全体の23.7%を占める。だが、行政の支援が十分でないうえ、住民の合意形成の難しさから、補強はほとんど進んでいないのが実情だ。
震災以降、一部の自治体がこうしたマンションの耐震診断への補助を始めていたが、国が05年4月に補助制度を整備したのを機に拡大。現在、指定市、東京23区、道府県庁所在地の計72市区のうち37市区が補助制度を持っており、これらを対象に補助内容や実績について聞き取り調査した。
耐震診断が最も進んでいるのは98年に補助を始めた横浜市。1603棟が簡易診断、77棟が精密診断を終え、これは市内の旧耐震マンションの88%にあたる。「全国に先駆けて補助を始めた。実績をあげようとの意識が続いている」(住宅計画課)という。
神戸市は旧耐震の8割にあたる664棟の診断が済み、宮城県沖地震(03年)の被害を受けた仙台市も約5割、112棟の診断を終えた。東海地震への関心が高い名古屋市は06年に補助を始めたばかりだが、当初予算枠の倍を超える23棟の申請があった。
一方、旧耐震マンションが最も集中するのは東京23区で、計8184棟あるが、補助を受け診断をしたのは計149棟に過ぎない。さいたま市など12市区では補助制度創設以来、一度も使われていなかった。
専門家によると、旧耐震マンションを診断した場合、何らかの強度不足が見つかる例がほとんどという。極端な強度不足が指摘された場合、補強用鉄骨や耐震壁設置などの工事が必要だ。13の市区ではこうした耐震改修への補助制度も設けているが、実際の申請は神戸市1棟(06年度)と福岡市2棟(同)のみ。耐震診断が進む横浜市でも、ようやく初の申請が近く出される見通しだという。
耐震診断が進まないのは、いざ改修となった場合に1棟で数千万円から数億円かかり、住民の合意がなかなか得られないためだ。自治体の担当者は「築二十数年を過ぎ、すでに大規模修繕でお金がかかっている上、住人は高齢者が多い。たとえ一定の補助があっても改修後の展望が開けない」などと指摘する。
過去6年で1件も申請がないさいたま市では、「問い合わせはあるが申請につながらない。補強用鉄骨が住宅に入ることにためらう人もいる」(建築総務課)。診断結果で資産価値が下がることを敬遠する住民も少なくない、という。
国交省の現行の補助制度のもとでは、一般に1棟数百万円程度かかるとされる耐震診断は、国と市区町村が全額か3分の2を負担する例が多い。耐震改修は条件つきで補助率15.2%とされているが、上乗せをしている自治体もある。
〈マンションの耐震補強〉 81年5月以前の耐震基準は「震度5程度の地震にたえうる住宅」だったが、同年6月の建築基準法改正で「震度6強以上の地震で倒壊しない住宅」と厳しくなった。耐震診断では1級建築士らが柱や壁の強度、コンクリートの劣化などを調査し、構造耐震指標(Is)の数値で危険性を診断する。現在の耐震基準にあたるIs値0.6を下回る建物は、耐震補強が必要とされる。(1)耐震壁の増設(2)柱に炭素繊維を巻きつける(3)壁に補強用鉄骨を入れる——などの工法のほか、制震や免震工法がある。
http://www.asahi.com/national/update/0106/OSK200701060077.html