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2006年12月27日(水) 00時00分

【関連】ぶぜん 表情変えず 諭す裁判長『いらだち覚えた』 東京新聞

 「住宅は一生に一度の買い物…といった想像力がなかったのでは」−。裁判長自ら、元一級建築士の姉歯秀次被告(49)を諭した二十六日の東京地裁判決。「住の信頼」を大きく損ねた耐震強度偽装事件で、構造計算書を偽造した同被告に実刑が言い渡された。しかし、再建計画もなかなか進まぬ被害マンションの住民らは「行政の責任はなぜ裁かれないのか」と、やり切れなさを募らせた。 

 「懲役五年、罰金百八十万円に処する」。川口政明裁判長から実刑が言い渡された瞬間、黒のスーツ姿の姉歯秀次被告はぼうぜんとした様子だった。さらに裁判長が判決理由を読み上げる間は終始、伏し目がちで、ぶぜんとした表情を変えることはなかった。

 判決言い渡しの後、川口裁判長は「法廷で何回か話を聞いたが、大変なことをしでかしたという感じが(姉歯被告から)伝わってこなかった。私がいらだちを覚えたのは偽らざる事実だ」と語りかけた。

 裁判長は続けて「悪い住宅事情の中で、購入者は一生に一度の買い物として、毎日の生活を送っている。そういったことに対する想像力がなかったのでは。服役後、現場におもむいて胸に刻んで反省を深めてほしい」と諭すと、姉歯被告は裁判長に向かって二度、深々と頭を下げた。

■被害住民 私たちのローン苦は一生

 姉歯被告が国会で「最初の偽装物件」と偽証したとされるグランドステージ(GS)池上(東京都大田区)。建て替え組合の末吉正治副理事長(57)は「何年懲役になろうと、考えるのもむなしいだけ。とにかくマンションを再建したいという気持ち」と、同被告のことはあえて考えないようにしているという。この日は、再建に向けて解体工事が始まった。「補償能力のない業者がマンションを造れないようにするなど、法制度が見直されることがせめてもの願い」と語った。

 GS茅場町(中央区)は、今も再建計画がまとまっていない。経営していた料理店を閉めざるを得なくなり今は管理組合の理事として再建に走り回る女性は「われわれは、人生を狂わされた。五年後も元に戻れるかどうか分からないのに(姉歯被告は)刑務所を出ているかもしれない。二重ローンで追加負担は数千万円というのに、罰金は百八十万円なんて」と怒りを見せた。

 GS住吉(江東区)は来年二月に住民の建て替え決議を予定しているが、一戸約二千万円の負担が加わる見通し。会社員の男性(41)は「現行法では厳しい判決かもしれないが、私たちは一生ローンを抱える。かたや百八十万円の罰金と懲役五年で社会復帰できるとは」とやりきれなさを語った。

 GS稲城(東京都稲城市)の管理組合理事長赤司俊一さん(39)は「偽証や名義貸しといった罪状での立件では、被害者からするとあまりにも軽すぎる。素直に受け入れられない」とコメント。姉歯被告に対しては「私たちの心の傷を少しでも癒やすためにも、直接謝罪の言葉を聞きたかったのに、手紙もなければ連絡一つない。最後まで裏切られたと感じている」と怒りをあらわにした。

 判決を傍聴したGS東向島(墨田区)の田中拓さん(33)は「なぜこういうことが起こったのか、裁判で明らかにならなかった。事件が矮小(わいしょう)化されていくのは許し難いと思う。国とか地方自治体とか、誰も責任を取らず終わらせていいのか。被害者の救済に刑事事件は役に立たない」と語気を強めた。

 二十六日に建て替え事業の申請が行われたGS川崎大師(川崎市川崎区)の男性(46)も「姉歯被告がどんな判決を受けても、二重ローンなどが解決するわけではない。国土交通省が被告個人の責任で収束を図ろうとしているのが不満だ」と疑問を投げかけた。

 新しいマンションの建設が始まったGS溝の口(同市高津区)の片山博通さん(50)も「判決(の軽重)の判断は難しい。このようなばかげた犯罪が起きないようにしてほしい」と話した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20061227/mng_____sya_____009.shtml