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2006年12月27日(水) 01時51分

12月27日付・読売社説(2)読売新聞

 [姉歯実刑判決]「それでも消えない被害者の怒り」

 「前代未聞の悪質な犯行」と厳しく指弾した。耐震偽装事件で東京地裁は、姉歯秀次・元1級建築士に懲役5年、罰金180万円の判決を言い渡した。

 検察側の求刑をそのまま認めた量刑である。建築基準法の規定では、事件の核心である偽装行為に対しては罰金刑にしか問えず、当初から法の不備も指摘されていた。今回は国会の証人喚問での証言に議院証言法の偽証罪を適用したことが、実刑5年につながった。

 判決によると、偽装で「経済設計のできる有能な建築士」という評価を得た姉歯被告は、その地位を保つべく、さらに偽装を続けた。

 検察も「多数の生命・身体の安全を脅かすことを一顧だにせず、ひたすら自己の欲得に走った」と指摘していた。

 マンションやホテルなど99棟で偽装が行われた。震度5強程度の地震で倒壊する恐れのある11棟の分譲マンションの入居者は、解体のため退去を余儀なくされた。建て直すにも多額の追加負担が必要だ。厳しい状況が続いている。

 住民の憤りは収まりようがない。もたらした被害の深刻さや社会不安の大きさを考えれば、この程度の量刑では納得できないという人もいるだろう。

 姉歯被告は国会の証人喚問でも公判でも、施工主の木村建設の側からコスト削減の圧力があったと主張したが、判決は「責任転嫁」にすぎないと退けた。「民間企業がコスト削減に走るのは当然」であり、姉歯被告の言葉に「多数の国民が欺かれた」とも述べている。

 判決が示したのは、偽装は姉歯被告の個人犯罪という構図だ。しかし、事件を通じ、建築確認をめぐる、いくつもの構造的な問題が浮き彫りになった。

 姉歯被告の偽装を、民間の指定確認検査機関や自治体が見抜けなかった。検査業務は1999年から民間にも開放されたが、利益優先のおざなりな検査が一部で常態化していた。

 施工主や建築主の中には、安全性の確保は他人任せで、欠陥に対する補償能力のない業者がいることもわかった。

 しかも、姉歯被告以外にも、偽装やずさんな強度計算など、各地で不適切な設計業務が次々と発覚した。

 国土交通省は、建築基準法や建築士法を改正し、罰則を強化したり、建築確認制度を見直したりした。来年以降、順次施行される。法律上の仕組みは整備されてきた。問題は実効性である。

 判決は「技能や職業倫理に対する信頼を取り戻すには、建築業界を挙げての努力が必要」とも指摘した。同様に、建築行政の信頼回復も問われている。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061226ig91.htm