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2006年12月16日(土) 00時00分

「愛国」評価と戸惑い 改正教育基本法成立朝日新聞

 「我が国と郷土を愛する態度を養う」ことなどを柱とする改正教育基本法が15日成立した。教育現場はどうなるのか。都内で探った。

◆都教委 方針を先取り◆

 卒業式などでの国旗掲揚、国歌斉唱を厳しく指導してきた都教育委員会。指導部は「愛国心は学習指導要領にすでに盛り込まれており、教育基本法の改正は今後の指導に直接、影響はない。特段の周知徹底も考えていない」と話す。

 ただ、中村正彦都教育長は個人的な見解と断った上で、「私どもが考えていることと軌を一にしている点が多い。公共性、生涯学習、家庭教育、幼児期の教育のあり方などは現行法では触れられておらず、現場でまさに苦労している部分。改正は意義がある」と評価する。

 都教委は04年に策定した「教育ビジョン」で、「日本の伝統・文化への理解を深め、郷土や国に対する愛着や誇りを育むとともに、多様な文化に対する理解を深め、国際社会に生きる日本人としてのアイデンティティーを育む教育を推進する」との目標を掲げ、各校での徹底を進めている。改正法を先取りした格好だ。

◆都職員 「共生の時代なのに」◆

 人口のほぼ1割が外国人の新宿区。昨年ある区立小学校で日本の産業を学ぶ研究授業があった。食糧自給率を上げよう、と当然のように説く教員にこう言った子がいた。「貧しい国から食糧を買うのは、その国を豊かにするからいいことだ」

 「いろんな国をルーツに持つ友人が身近にいるこの子たちはともに生きる考え方を体で感じている」と教員は言う。「多文化共生の時代になぜ、『愛国』なのか」

 9月の「日の丸・君が代」訴訟判決では、卒業式などでの国旗掲揚や国歌斉唱を義務づけた都教委通達を教育基本法の「不当な支配」と認定した。しかし、改正後の条文では、同様の通達でも不当とされない恐れが強い。原告となった都立高教諭は「画期的な勝訴判決が出てホッとしたが、今後どうなるのか」。

 一方、今年度から「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された歴史教科書を使う杉並区のある中学校副校長は「教科書で教える内容が大きく転換したわけではない。基本法改正で急に国の統制が強まることもないだろう」とみる。

◆国関与強化 割れる見方◆

 教育基本法見直しを提言した「教育改革国民会議」のメンバーだった渋谷教育学園の田村哲夫理事長は「日本の伝統文化を大事にする視点が加わった」と改正法成立を歓迎する。「多様な教育を守るうえで、私学振興が盛り込まれた意義は大変大きい」

 私学を成り立たせるのに不可欠な助成も、改正法に明記されたことで受けやすくなるとみる。逆に国の関与が強まる恐れについては「私学人の行動ひとつだ」と言う。

 一方、「助成金で締め付けられ、私学はコントロールされてしまうのでは」と心配するのは、麻布中学・高校の氷上信廣校長。「国の方針と独立したところでいかに独自の教育が実現できるかが私学の意義だ。私学振興はありがたいようだが、国の囲い込みにならざるを得ない」と話す。

◆「地方の取り組み妨げるおそれも」 シンクタンク「構想日本」加藤代表◆

 第17条では、各地の自治体は国の教育振興基本計画をふまえ、それぞれの基本的な計画をつくるよう努めることが求められている。この点について、教育行政改革を提言してきたシンクタンク「構想日本」(千代田区)の加藤秀樹代表は「各地で独自の取り組みを導入する際に障害となるおそれがある」と指摘。「文科省による中央集権的な支配が強まり、地方分権にも逆行する内容だ」と話す。

 また、改正法には「心身の調和のとれた発達を図るよう努める」(第10条)などと、家庭教育に関する条項も加えられた。加藤代表は「しつけや気持ちのあり方は法律が対象とすべきことではない」と述べ、「生涯を通して教育行政が介入してくる恐れがある」とも語った。

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000612180003