2006年11月28日(火) 00時20分
<造反組復党>小泉路線を修正 世論にらみ妥協の側面も(毎日新聞)
郵政造反組の自民復党問題は27日、現職11人について認めることでひとまず決着した。郵政選挙から1年余。手のひらを返したような今回の対応は、小泉純一郎前首相の路線の修正となる。民営化反対を貫く平沼赳夫元経済産業相の復党を見送ったことでスジを通したとの主張も聞かれるが、世論にらみの妥協の側面は否定できない。復党問題は落選組の扱いも含め「長期化」するとみられ、参院選に逆効果との見方もある。【高山祐】
今回の復党劇は、参院選で「1人区」(改選数1)対策を重視する参院自民党側の強い要求が出発点にある。改選数2以上の選挙区では民主党などと議席を分け合うが、天王山は29ある1人区。造反議員12人のうち、野田聖子元郵政相(岐阜1区)ら3人を除く9人の選挙区はそうした1人区と重なる。
とりわけ山梨、佐賀、宮崎の1人区には造反組が2人ずついる。平沼氏は衆院岡山3区選出で、1人区の参院岡山選挙区では片山虎之助参院幹事長が改選を迎えるという事情も見過ごせない。多少の批判を受けても復党を進めないと、苦戦は必至との焦りにも似た思いが参院自民党に強い。
一方、党内には衆院を中心に「復党させれば、逆に参院選で国民の批判を受けて負ける。改革路線の実質転換になる」という危機感も根強い。中川秀直幹事長が復党ハードルを上げ続けたのも、こうした批判を抑えるためには、厳格な復党条件の提示が不可欠と考えたからだ。
ただ、これに平沼氏が猛反発し、復党問題は混迷の感を強めた。青木幹雄参院議員会長や中川昭一政調会長らが復党容認論を展開し、党内が二分され、大きなしこりを残した。毎日新聞の世論調査(25、26両日)で安倍内閣の支持率は前回(9月)調査より14ポイント減の53%に急落したが、一連の展開と無縁ではないとみられる。
11人の復党が認められたとはいえ、復党劇はこれで終わらない。青木氏らは今後も、平沼氏と落選組の復党を要求する構えであるばかりでなく、11人とこれに挑んだ新人議員らの小選挙区と比例代表のすみ分けが難題として残るからだ。平沼氏を除く11人のうち、堀内光雄元党総務会長(山梨2区)ら6人の選挙区で「刺客」議員が比例代表で復活当選している。
党内には、刺客議員を次期衆院選の小選挙区候補、造反組は比例代表候補とする案もあるが、前回、刺客を立てられながら小選挙区で勝ち抜いた造反組だけに、地元を中心に不満が出るのは確実。交互に選挙区候補と比例代表候補として立候補する「コスタリカ方式」も想定されるものの、選挙区内でのしこりは根強く残り、協力体制が築けるかは不透明だ。
この調整について、中川幹事長は27日の記者会見で「これはまだ申し上げる時期ではない。衆院のどの選挙区についても調整する時期でない。今は白紙だ」と詳しい言及を避けた。
◇世論の批判意識? 安倍首相、説明に力入る
安倍晋三首相は27日夜、平沼赳夫元経済産業相を除く郵政造反組11人の復党を認めたことに関し、首相官邸で記者団に対し「自民党は決して古い自民党に戻ることはない。また戻してはならない」などと11分間にわたって弁じた。首相が立ったまま質問に答える「ぶら下がり」で、就任以来10分を超えたのは初めて。世論の批判などを意識して、説明に力が入ったようだ。
首相はこの中で「民営化が是か非かということをあいまいにしてはならないと考えた。条件を付けるのは厳しいハードルだったと思う」と理解を求めた。青木幹雄参院議員会長らが無条件復党を求めていたことについては「国民の前で我々の考え方を明らかにし、復党問題を進める必要があると考えた」と説明した。
ただ、参院選との関係を尋ねられると質問をさえぎるように「参院選はまだ来年7月。まったく(関係)ない」と強調した。【小林多美子】
◇世論・無党派重視から旧来の組織重視に転換
郵政民営化法案に造反した無所属議員11人の復党容認は、平沼氏を除外したとはいえ、小泉政権を貫いた世論・無党派重視の路線を安倍政権が旧来の組織重視に大きく修正したことを意味する。昨年、刺客騒動まで演じて世論の共感を呼び、衆院選で圧勝した事実と照らせば、有権者への背信行為だ。「小泉流」の劇場型政治のはらむ危うさと、政党の無節操さの双方を示した点で、政治の汚点との指摘は免れない。
自民党内にはもともと、小選挙区下でどう党勢を確保するかについて、路線対立がある。ひとつは森喜朗元首相や青木幹雄参院議員会長が主導する、従来の自民党政治に沿った職域団体や地方議員を重視したオーソドックスな組織重視志向。もうひとつは小泉前首相が追い求め、武部勤前幹事長や若手議員らが共感する世論や無党派層を強く意識した路線だ。今回、来夏の参院選をにらみ、復党をめぐる確執が際立った根はそこにある。
結局、郵政民営化賛成の誓約書を出す条件を中川秀直幹事長が譲らず、転向を一人拒んだ平沼氏の復党は見送られた。中川氏主導の形で一括復党派の森氏や青木氏が政治的には押し切られたわけだが、12人のうち11人の復党が容認された意味は重い。昨年の衆院選はまさに「民営化是非」こそが争点であり、有権者の多くはその選択に沿い投票した。その点、これまでの離合集散劇とは質的に異なっている。
「平沼氏抜き」の実態は、小泉路線の踏襲と、復党への党内圧力の両立を迫られての妥協の産物だ。安倍晋三首相は小泉路線派の中川氏に調整を委ねる一方で、その路線に反し「先祖返り」しかねないちぐはぐな結論を出した。参院選戦略をめぐる首相の「迷い」が党内の亀裂を広げた後遺症は、予想以上に重たかろう。
はなやかだった小泉劇場だが、世論形成にあずかったタウンミーティングは過剰な演出が判明。そして、1年余での造反議員の復党劇では、郵政解散すら有権者向けに演出した芝居だったと言われかねない。政権交代から間を置かず、ほころびが次々と表面化することは異常だ。
一方で、野党・民主党も自民党同様、小沢一郎代表が組織重視の戦略に傾斜しつつある。自民、民主両党の内向きさは、政治的無関心を急拡大しかねない。【人羅格】
(毎日新聞) - 11月28日0時20分更新
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