2006年11月24日(金) 12時01分
弁護士:過疎地に供給、追い付かず 「県内に養成システムを」 /岩手(毎日新聞)
◇公設事務所、相談相次ぐ
弁護士過疎解消のため、釜石市に29日、弁護士常駐型の公設事務所「ひまわり基金法律事務所」が新たに開設される。しかし、喜んでばかりもいられない。すでに開設している二戸、宮古など4カ所には多重債務や悪質商法の相談が相次ぎ、潜在的な需要があることを証明した格好で、その需要に弁護士の供給が追いついていないのが現状だ。【岸本桂司】
県立県民生活センターは今年度から岩手弁護士会と連携して、弁護士が1人か不在のいわゆる「ゼロワン地域」に弁護士を派遣して無料相談に応じる事業を始めた。6月に久慈市など県内3カ所で開催した1回目は54件と予想以上の相談があり、11月の2回目は弁護士を増員した。
今月17日の二戸会場では19件の相談があった。イベントの会場で25万円のブレスレットを購入したという60代の女性が相談に来た。「血行が良くなり、肩凝りも治る」などと宣伝されていたので買ったが、効果が全く感じられず代金を取り戻したいと訴えた。「身近なところに弁護士がおらず、自分ではどうすればいいのかわからなかった。相談して一歩前進した」と安堵(あんど)の表情を見せていた。
日本弁護士連合会(日弁連)が弁護士過疎解消のため全国で設置を進める「ひまわり基金公設事務所」も県内で成果を上げている。田岡直博弁護士(29)は04年3月の宮古市での同事務所開設と同時に、東京から赴任した。開設から2年半で相談件数は約1500件。相談の7割は多重債務関係で、消費者金融のグレーゾーン金利による過払いで業者に返還させた金額は計約12億円にも上る。「弁護士過疎地域は需要がないわけではない。弁護士の存在が需要を喚起する側面が強い」と話す。
ただ岩手弁護士会所属の63人の弁護士のうち40人が盛岡市に本拠を置くなど地域格差は依然として大きく、過疎地での弁護士不足はますます深刻になっている。地裁の本庁・支部の管轄で区分した場合はゼロワン地域は解消された。しかし「宮古には二つの事務所があるが、私の事務所では相談は1カ月待ち。すぐ相談できるというのが本来の姿で、弁護士が全く足りていない」(田岡弁護士)のだ。弁護士が高齢化し、実働人数はさらに少ないと指摘する声もある。
日弁連は弁護士過疎地で個人事務所を開設・運営する資金を無利子で貸与する制度を設けているが県内の適用はいまだ1件と少なく、制度を利用して若手弁護士を岩手に定着させるのが今後の課題になる。岩手弁護士会の吉田瑞彦会長は「盛岡で若手を育てて過疎地に送り出す都市型公設事務所の設置など、岩手の中での養成システムを作らなければいけない」と話す。
11月24日朝刊
(毎日新聞) - 11月24日12時1分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061124-00000093-mailo-l03