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居合わせた実習生シーラさん(20)、店員マリアさん(18)、高校生ナディンさん(16)。それぞれに好きなマンガを聞くと、シーラさんは「ちょびっツ」、マリアさんは「NANA」、ナディンさんは「オセロ。」。Jポップは「カゲロウ(蜉蝣)」「ムック」の名が挙がり、よどみがない。残念だが、私の全く知らないグループだった。
小さいときから日本アニメに親しんできた世代は、異文化にオープンだ。知っている日本語を聞くと、今や世界共通語になった「カワイイ」「ビジュアルケイ(系)」のほか、「ミヤビ(雅)」「ミヤコ(京)」などを挙げた。
「日本の現実の女の子は社会的な制約があって大胆なことができないから、マンガで自由に願望を満たすのではないのかしら。マンガのようにかわいいポーズで、いつも『ふふふ』と笑ってはいないだろうし」。冷めたことを言いながら、「古い伝統と新しいものが混在しながら、若者が新しい流れを作っているニッポンに行ってみたい」と口をそろえる。
ドイツのマンガ市場も急激に伸びている。6対4ぐらいで女性ファン主導といわれ、ボーイズラブものも交じる。マンワ(韓国マンガ)もよく売れている。
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日本の小説はここ数年、桐野夏生、大沢在昌、東野圭吾らのミステリーが翻訳された。しかし、フランスのように日本文学全体への興味にはつながらず、村上春樹だけが突出して爆発的ともいえる人気だ。どこの書店でも、ドイツの人気作家と同等に扱われている。
南ドイツ新聞の文芸評論家ローター・ミューラーさんは「自分たちのような1950年代生まれには、日本といえば黒沢明の映画や三島由紀夫の小説だった。それを変えたのが村上だ」と語る。
「それまでの日本人のように西欧的な文化におそれや遠慮がない。一方で、日本社会をみつめた『アンダーグラウンド』のように日本とつながっている。西でもあり、同時に東でもあって、『文明の衝突』の対極にある。これは、現代の世界が渇望しているもので、村上は世界の作家だ」と評価する。
ベルリン自由大学のイルメラ・日地谷キルシュネライト教授は「村上の物語は何かが起きても、解決しないまま異界に移って遊びのように漂う。その軽さやあきらめのよさが、意外性もある楽しい物語として受け止められている」。
村上作品は、他の国では「孤独な若者が共感」という反応が圧倒的だが、ドイツでは普通の中年読者も多く、恋愛小説作家と思い込んでいる人もいるようだ。
「NEO TOKYO」で会ったマリアさんは「スプートニクの恋人」を読みかけたが、あとの2人は関心がなさそうだった。ふたつのMの人気はバラバラで、フランスのような共振現象は起きていない。「文化的なブームは日本から中国とインドに移っている」とミューラーさん。
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「ドイツ語圏における日本学」というシンポジウムが最近、ボンで開かれた。その文学分科会では、大江健三郎、中島敦、大庭みな子、村上春樹と並び、漫画家水木しげるの「異界」についての報告があった。
「純文学だけでは、もはや日本文化をとらえられない。ポップカルチャーの影響が強いJ文学への変化が90年代に日本で騒がれた。その波がようやくドイツに到着した」。フランクフルト大学のリゼット・ゲーパルト教授は、そう考える。
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200611210346.html