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2006年11月21日(火) 00時00分

〈ふたつのM−マンガと村上春樹1〉北欧に響く「かめはめ波」朝日新聞

 ストックホルムの書店で目を疑った。

ボニエール社で出しているマンガ

 「MANGA」と書き込まれた大きな丸い紙。その下の棚に「ONE PIECE」「NARUTO」「犬夜叉(やしゃ)」など、日本の人気マンガのスウェーデン語訳がずらりと並んでいる。

 スウェーデンでは00年春、「ドラゴンボール」が翻訳された。最初はゆっくりとした売れ行きだったが、02年ごろから急に伸びて、現在4巻で120万冊出ている。人口が908万人の国としては大きな数字だ。

 出版したのは19世紀に創業された名門出版社ボニエール・カールソン。同社が発行した日本マンガは現在、「ケロロ軍曹」など15シリーズ、230万冊になった。月刊マンガ誌も2種類。今や同社の売り上げの15%をマンガが占める。この成功に、他の3社がマンガ市場に参入してきた。

    ■ ◇

 ボニエール・カールソンの担当編集長、アンナ・エークストロムさんによれば、ノルウェー、デンマークなど北欧全体で同じようにマンガ人気が広がっている。

 当初は、親や教師から暴力や性の表現に警戒の声もあったが、翻訳作品を選んだためか、今は公立図書館にも置かれている。「こんなに子どもたちに愛されるなんて、私たちも驚いています」

 エークストロムさんは12年前、交換留学で日本に行き、高橋留美子のファンになった。「イメージと文字を組み合わせたマンガは、子どもが物語になじむいい窓口になります」

 「ほら、これを見て」と渡されたのは、女の子が乗った馬が空を駆ける表紙をつけた文庫本だ。ところどころに数ページのマンガがはさまっている。

 「この国の女の子の夢は馬を飼うこと。馬のマンガがないかと日本に問い合わせたら、競馬しかないっていう。それで、スウェーデンの作家と画家に依頼して、物語とマンガを組み合わせたんです」

    ■ ◇

 マンガの描き方の本を出し、新人賞も始めた。日本語に関心をもった子どものために、マンガで漢字やかなを学ぶシリーズも翻訳している。

 翻訳者シモン・ルンドストロムさん(32)は、スウェーデンのオタク第1世代だ。子どものころ、夏休みを過ごしたフランスのテレビで日本アニメの魅力を知った。大学生のときに同好の仲間と研究会を作った。日本には2度、留学した。

 「スウェーデンで日本アニメに人気が出始めたのは90年代末。マンガも最初は、日本からきた特殊なものと受け止められていたが、普通の本屋に並んだことで一般に広がった。アメリカのコミックに比べて文学的でキャラクターに魅力がある」

 この人気は、日本の生活や若者文化への関心につながった。イエーテボリ大学博士課程に留学中の佐藤吉宗(よしひろ)さん(28)は、ヨンショーピン市の市民講座で日本語を教えている。今春、生徒の高校生から「貸してあげる」と渡されたDVDは、TVドラマ版「電車男」だった。

 「日本の情報を、インターネットでほぼ同時に手に入れている。カワイイという言葉はもちろん、ビジュアル系、ゴスロリ(ゴシック・ロリータ)など、日本の流行をよく知っています」

 ストックホルム大学では今年、これまで60人ほどだった日本語クラスに、希望者全員を入れたら180人になった。かつては経済に関心のある学生が多かったが、今は日本の若者文化にあこがれる。髪を黒く染めた学生もいるという。

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 パリやベルリンの書店ではMURAKAMI(村上春樹)の小説が平台に並び、MANGAコーナーでは立ち読みの姿が見える。ふたつのMに象徴される日本の感性が、世界の若者に浸透している。その向こうにどんな未来が見えるだろうか。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200611210340.html