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「アラーは偉大なり。イラク万歳。イラク国民万歳。帝国主義の侵略者に死を! 彼らは人道の敵だ」
「絞首刑」の判決を聞いた直後から、フセイン元大統領は叫び始めた。左手にイスラム教の聖典コーランを持ち、黒のジャケット姿。鋭い目で判決文を朗読する裁判長をにらみ、「おまえは占領者の召使だ」とののしり続けた。
他の被告がおびえや怒りで曇った表情を見せたのとは対照的に堂々とした様子で、入廷早々、起立を命じる裁判長の指示を拒否。廷吏に強制されやっと立ち上がった。判決後、法廷外へ連れ出そうとする廷吏に「押すな! 自分で出る」と叫んだ。
映像は、米国の検閲のため約20分遅れで中継され、映像はたびたびカットされた。判決の瞬間の映像が流れると、外出禁止令で閑散としていたバグダッド市内のシーア派地区では、祝砲の猛烈な銃撃音が響きわたった。逆に市内北部のスンニ派地区では、怒った住民が警官隊と銃撃戦を始めたとの情報もある。
フセイン元大統領は公判で、一貫して「自分は今も大統領」と主張し続けた。起訴事実についても「法に基づき、大統領である私が(148人を死刑とした)裁判を命じた。どこが違法なのだ」と主張。それ以上の釈明はせず、証言のたびに「イラク国民よ、団結せよ」などと演説。「私は軍人だ。処刑するなら絞首刑ではなく銃殺にしろ」と開き直った。
法廷や虐殺被害者の証人への「侮辱」も目立った。被告の1人が下着姿で現れ、証人の証言中にフセイン元大統領がイスラム教の祈りを始めたこともある。
逐一報じられる元大統領の強気な姿と混乱する法廷の様子に、長く弾圧を受けてきたシーア派民衆は敏感に反応した。
「米国はサダムに弱みを握られているので、自由にさせている」「実は死刑にならない」。うわさが広がり、街頭演説を始めたジャファリ前首相が、怒った市民に「サダムを早く死刑に」と迫られる場面もあった。
裁判では、手続きの公正さや被告の人権より、民衆世論が重視される傾向が強かった。最初のアミン裁判長は、「被告に甘い」と批判され途中で更迭。二つ目の「アンファル作戦」と呼ばれるクルド人大量殺害事件の裁判長も同じ理由で交代させられた。
マリキ首相は4日、テレビを通じ「明日は判決の日。(フセイン被告)にふさわしい判決を期待している。判決を聞いて国民は幸せに感じるだろう」と死刑への期待感を明確に表明し、復讐(ふくしゅう)を求めるシーア派の民衆感情を代弁して見せた。
ただ、判決でイラクの治安が改善される見込みはなく、むしろ連日60人前後の犠牲者を出し続けている宗派対立が、さらに悪化しそうだ。カリルザード米大使さえ、判決を歓迎する5日の声明で「今後数週間、さらなる困難に直面するだろうが、米国はイラク国民を支えていく」と述べている。