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公社が採り入れたのは、トヨタ方式を応用した「JPS(ジャパン・ポスト・システム)」。
03年、埼玉県の越谷郵便局で最初に試行。指導役のトヨタ社員が、ストップウオッチで郵便物の仕分けの速さを0.1秒単位で計ったり、局員の歩数を数えたりし、作業の全工程を見直した。いまは、全国約1200の普通郵便局のうち約1000局に採り入れている。
この方式は、そもそも仕事の量を明確にすることで、ムダのない人員配置をするのが狙い。各職場には「原単位(げんたんい)」という手法が採り入れられた。
例えば、局に届いた郵便物を送る地域ごとに分ける際は、15分間でできる郵便物ごとにいったんケースに分けてから区分作業に入る。均等に区分けすることで作業量が一目でわかるという。これまでは、勘やコツを頼りに作業量や人繰りを想定していた。
また、局内で最短距離を動けるよう床に進路を示すテープを張った。配達する郵便物を区分けしたりする際、立ったり座ったりすると余分な時間がかかるので、いすを撤去して立ったまま作業させることにした。
公社は今春、JPSの導入前に比べ、越谷局で33%、全体でも18%ほど生産性が向上し、1467人の余剰人員を生んだとして「トヨタ効果」を強調していた。
しかし、トヨタから派遣された指導役の社員が今年4〜6月にJPSを重点的に進める142郵便局を視察したところ、現場に浸透していない実態が明らかになった。
高橋俊裕・副総裁(元トヨタ常務)らにあてた報告書には「実効果に繋(つな)がる動き何ひとつやっていません」「上辺だけの改善ごっこが氾濫(はんらん)」と、厳しい指摘が並ぶ。
仕事量と人員配置の適正化を「まじめにやっている」と評価されたのは8局。「やっていない」が30局、「全くやっていない」が56局もあり、「(全体の)81%はデタラメ局」としている。
また、社員が視察した際、局長らをその場で「辞めろ! 首だ!」などと非難したことや、「怒り、憤りを通り越してかわいそうな連中だと思った」との感想も記載されている。
「各局がやっていないのにやっているという、うその報告、ごまかしを本社に上げています」とも書かれ、公社の発表した数字が実態を反映していない可能性もある。
東京都内のある職員(53)は「担当者の見回りのときだけ(JPSを)しているように見せかけている。局長も黙認している」と打ち明ける。「局長でさえJPSがうまくいくと思っていない。下には『やれ』と言うしかなく、上には『やっています』と作文しているのでは」
「トヨタ流」を疑問視する声は少なくない。
東京都内のある郵便局員(57)は「郵便局の仕事は、定型の部品を使う自動車の製造とは異なる」と指摘する。「日によって郵便物の量に波があるし、一つひとつ形や大きさ、重さも違う。必ずしも一定の時間ではできない」
配達区域についても、配達部数やバイクの走行距離などから厳密に振り分けられた。担当職員(55)は「坂道や階段、袋小路はほとんど考慮されずに持ち場が決まる。人員削減のため中規模のビルやマンションも1人で配らなくてはならなくなった」。時間内に配達できずに超過勤務となり、人件費削減にはつながらないという。
JPSが「労働強化につながった」という指摘もある。いすが撤去された職場では、腰痛やひざの痛みを訴える人が続出し、遅配の原因になっているという。
郵政民営化について、小泉前首相は「サービスは低下しない」と繰り返したが、現場からは早くも来年の年賀状配達を心配する声が出ている。
複数の職員が「労働条件が厳しくなり、アルバイトも集まりにくくなっている。慣れない方法で来年は遅配が相次ぐのではないか」と懸念する。
JPSの導入にもかかわらず、05年度の郵便事業の人件費は前年度より31億円増えて1兆4238億円。超過勤務手当も115億円多い1040億円だった。