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——映画監督に著作権がない、というのは、意外だったのですが。
伊藤 映画は、カメラマン、美術デザイナー、録音技師たちの創造行為の協力の元に、監督が統括して行う作業です。始める、先に進める、終わるという行為は監督だけの自立した著作行為なのに、著作権法第二九条で、製作者に帰属させてしまった。著作権を取り戻すのは大変です。監督協会内にも『会社との協約を法律化する方が次善の策では』という声もありましたが、私は反対でした。法律の整合性からいっても、著作者が著作権を持つというのが常識であり、著作権法の本意でもあるのに、映画だけが違う。文化庁にとっても、のどに刺さった大きな骨なのです。
林 昔は、給料も権利も欲しいのか、ということだったんだと思う。でも、今は、ほとんどがフリーランス。声を上げていい時でしょう。
——林監督は、今回はラインプロデューサーをされました。
林 総意として「著作権をくれ」ではなく、「著作権がないんだ」と伝えることでした。(組織の)中にいるときから、著作権は法律的にもあるべきだと考えて闘ってきた伊藤さんに付いて、弟子みたいなことになり、何かを引き継ぐ。そこにも著作権があると感じました。
伊藤 高橋伴明、林海象、山本起也という三監督のプロデューサーがいなかったら、できなかったでしょう。弟子だとか言うが、撮影中、私はこっぴどく怒られていたんです。時代劇部分では、日光江戸村が今回、全面協力してくれました。林さんから受けた恩を返すつもりでやってくれていたのに、撮影所で「長屋が狭いので、この壁をぶち破って…」などと言ってしまっていたわけで。
林 僕がガミガミ言っても、映像がぶれることはない。すごいな、と思いました。この作品は、娯楽作にもなっているところがいい。いくらプロパガンダで叫んだって、おもしろくない。活劇もある楽しさがある。その気遣いはさすが映画監督。
——監督以外にも、小泉今日子さんが弁士として出演しています。
伊藤 あの役に関しては、監督たちのマドンナであってほしかった。彼女が「この映画の趣旨に賛同するので、同志として出る」と言ってくれた。俳優のみなさんに出ていただいて、かけがえのないありがたさを感じています。
林 最初、僕は「出るわけない」と思っていたが、僕の考え方も浅かった。監督ばかりが集まって映画なんかできるのかとか、現場でも「邪魔ばっかりするのかな、みんなうるさいし」と思っていましたが、撮り始めると、スパッと役割分担を分かっていて、全く乱れない。みんな映画の人なんだな、と思いましたね。映画の力を信じられた。
——この作品の著作権者は伊藤監督だそうですが。
伊藤 今回、製作者・日本映画監督協会と著作権の帰属をめぐって調印を取り交わしました。監督協会が私に著作権を認め、すぐ後に、その利用権を協会に委ねました。利用権を委ねるならば、映画会社はいらぬ恐怖を抱く必要はないんだという例を先取る形での契約です。
——今後は、監督協会としてどう活動していくのでしょうか。
林 この映画を見れば、誰が対象者なのかが分かる。そことの話し合いになると思う。監督協会は、「著作権は映画監督にある」と言い切ったので、そこから引いてはいけないと思う。“ある人たち”には、とてもいやな映画だと思います。でもその人たちとかかわるのも我々の仕事。敵ではないですから。
伊藤 映画会社は思った以上に先行きに神経質になっているようです。そんな反応を得たので効力はありました。
林 取れるかもしれないですよね、こうやって声を上げることで。勝ち取るべきだと本当に思います。そうでないと、映画監督になる人がいなくなる。ある映画会社の人は「被告席にいるようだ」と言っていましたね。不快に思う人もいるでしょうが、問題提起は必要です。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20061024/mng_____hog_____000.shtml