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(鈴木泰彦)
九月八日、東京都渋谷区の社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に、テレビ局をはじめ映像、音楽に関して権利を持つ企業や団体の担当者が顔をそろえた。会議の名称は「ユーチューブ権利侵害対策意見交換会」。席上、十月二−五日を「送信防止措置集中強化週」とすることが決まり、最終的には地方局も加わって、計二十三団体(事業者)が公開されている動画をチェックし、ユーチューブに削除を要請した。
これまで個別に抗議や削除要請を行っていた関係者が足並みをそろえたのは初めてのこと。「日本のコンテンツがこれだけの規模で侵害されている、という実態を先方にあらためて認識してもらいたかった」と、取りまとめをしたJASRACは言う。著作権侵害の実態と怒りを伝えるための“示威行動”だった。
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ユーチューブの「チューブ」はブラウン管の意。ホームビデオやテレビ、映画などの録画映像、既成の音楽を投稿、公開できる。いずれも無料。昨年二月に米カリフォルニア州で産声を上げ、あっという間に巨大人気サイトに成長した。
国内の著作権関係団体がユーチューブを問題視しているのは、ドラマやアニメ、バラエティーなどの放送番組、アーティストのプロモーションビデオなど、有料で販売しているコンテンツを含めた多数の著作物が、無断で投稿され、無料で視聴可能な状態に置かれているためだ。
強化週の期間中に「権利侵害」とされた動画ファイルは延べ二万九千五百四十九件。内訳は▽放送番組一万四千七百六件▽映画・ビデオ九千三百二十八件▽歌手らのプロモーションビデオなど五千五百十五件。圧倒的にテレビ番組が多かった。
ユーチューブ上では日本語での検索も可能とあって、「疑惑の判定」として話題を呼んだボクシングの試合のノックダウンシーン、生放送中のハプニングをはじめとする過去の「お宝映像」は、許諾を得ていないにもかかわらず視聴数もけた違いに多い“人気コンテンツ”となっている。
フジテレビによると、番組の無断投稿に気づいたのは今年初めごろだったという。強化週に確認した「権利侵害」は約三千件だが、それ以前に削除申請をした数は累計で四千件を上回っており、対応に追われる担当者は「違法コンテンツでビジネスをするのはどうか」と怒り心頭だ。
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ユーチューブ側は権利者からの削除要請には基本的に応じており、削除を求める手続きも簡略化するなどしている。しかし、最初の投稿者とは違う人物が削除された映像を再度投稿するケースが後を絶たず、その都度削除の申請を繰り返す権利者にとってはまるで「モグラたたきのよう」(君和田正夫テレビ朝日社長)。人気お笑い芸人が今年七月、生放送の情報番組で相方の不祥事についてわびた映像は、今月二十日現在でも視聴可能だった。
今回、削除申請に取り組んだ各団体は、事前審査の導入、匿名性の排除、権利を侵害した「前歴者」のアカウント停止などを連名でユーチューブに要請する構え。ただ、膨大な数にのぼる投稿をすべて事前にチェックできるのかという現実的な問題に加え、そもそも著作権侵害の投稿がユーチューブの人気向上に果たした役割も大きいことから、要請の効果を疑問視する見方もある。
元文化庁著作権課長で政策研究大学院大学教授の岡本薫氏は「著作権は私権であり、結局は侵害された側が声をあげるほかない」と話す。「モグラたたき」が終わるのはいつの日か−。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20061022/mng_____hog_____000.shtml