2006年10月04日(水) 14時00分
<缶チューハイ>価格破壊で過当競争 1本50円も(毎日新聞)
缶チューハイの価格破壊が起きている。1缶(350ミリリットル)100円割れは当たり前だ。度を過ぎれば未成年飲酒の助長などさまざまな社会問題をもたらし、手放しで喜んでばかりもいられない。何が起きているのか?【三沢耕平】
■ジュースより安く
東京都西部の酒販店。カラフルなパッケージに彩られた缶チューハイ売り場が目を引く。80〜90円台の値札が並び、店長は「ジュースより安くないと売れない」と話す。
缶チューハイは、宝酒造が1984年に発売した当初は210円だったが、99年にサントリーが140円で発売。アサヒやキリンなどビールメーカーも次々に参入し、価格競争が始まった。
現在のメーカー希望小売価格も、生産費や運送費などのコストに酒税(28円)を加えた1缶140円前後だが、国税庁が今年4月までに確認した国内最安値は1缶68円、2缶まとめては100円。メーカー各社の調査でも、全国の酒ディスカウント店約20社のうち9割以上が100円以下で販売していた。
要因の一つは、メーカーが小売店に支払う販売奨励金(リベート)。シェア拡大を狙うメーカーは販売量に応じて店にリベートを支払い、小売店はそれを原資に値引きする。さらに、リベートでは埋められない水準まで値下げする店もある。「客寄せ商品として赤字覚悟の値を付ける作戦」(酒販大手)だ。キリンは6月、来年からリベートを廃止・縮小すると発表したが、他社が追随する気配はない。あるメーカー幹部は「商品の淘汰(とうた)が始まろうという今、リベートはなくせない」と明かす。
次々と新商品が登場することも背景にある。缶チューハイは焼酎やウオツカなどの蒸留酒を炭酸で割り、果汁などで味付けしたもの。一ブランドでいくつも商品開発できるため、商品の回転が速い缶コーヒーを上回る年間100以上の新商品が登場している。「新商品の登場で人気が落ちた在庫品を安く処理するのは市場の原理」(大手卸)というわけだ。
■規制強化?
ジュースより安い現状は未成年飲酒の拡大を招きかねない。キリンが今年3月、1都3県で14〜19歳の子を持つ親200人に調査したところ、9割以上が未成年飲酒を最も誘発する飲み物として缶チューハイを挙げた。理由は▽ジュースのように飲みやすい(約7割)▽価格が安い(約6割)だった。
監督官庁の国税庁は8月、酒類取引指針を改定、国が酒の価格を決める「酒税保全命令」の可能性を示し、業界をけん制した。過当競争で零細小売店が酒税を滞納するケースもあるためだ。ただ、国が民間の商行為に介入するのは最後の手段。業界には「抜かずの宝刀」と見る向きも多い。
酒のテレビコマーシャルが禁止される可能性もある。世界保健機関(WHO)が07年5月をめどに、酒の広告規制を強化する方針なのだ。大半の先進国が酒の広告に何らかの規制をしており、WHOの動き次第で、日本も影響を受ける。
NPO「アルコール薬物問題全国市民協会」の今成知美代表は「飲酒運転や依存症患者が社会問題になっている。消費者にとっての本当の幸せは、価格が安いことではない。増税やテレビCM禁止などの規制強化が必要だ」と話している。
(毎日新聞) - 10月4日14時0分更新
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