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ブログ(日記風の簡易ホームページ)やSNS(会員制ネット交流サービス)の利用者が増えている。掲示板やメーリングリストがネット草創期からある古い道具だとすると、ブログやSNSは情報をより便利に相互利用できる新しい道具だ。この新しい道具によって、インターネットのコミュニケーションはどのように変化しているのか。成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科教授で、うわさ研究の第一人者でもある川上善郎さんに話を聞いた。
うわさの消費が速い——うわさにはどんなものがあるのでしょうか。
『流言』『ゴシップ』『都市伝説』の3つに分類できます。『流言』とはニュースや社会的な情報が流れるもの。例えば『地震が起きる』というようなうわさでは、情報を伝える役割が強くなっています。
『ゴシップ』は悪口のことで、身近な人だけに伝わるうわさです。単に情報を伝えるだけでなく、当事者が耳にすることで現実の生活に影響を与えることもあります。
『都市伝説』は小噺のようなもので、ストーリーとして面白いうわさのこと。エンターテインメント性の高いものだといえるでしょう。
これらは現実世界のうわさの分類ですが、ネットでも同じことです。ただしネットの場合、伝達のスピードが速く、多くの人に一気に伝わります。そのため1つのうわさはすぐに次のうわさへ取って代わり、また間違った情報やガセネタはアレンジされることが多くなります。ネットはうわさの消費が速い、といえるでしょう。
ブログでは「総ライター化」——ブログでのうわさには、どんな傾向がありますか?
まず大多数のブログが、誰にも読まれていない現実があります。ブログを始めても、単なる日記では誰の興味も引けません。いわば『総ライター化』という現象です。読者をつかむには、常にネタ探しをしなければなりません。ブログを書いている人の多くが『ネタがない……』とこぼしていますよね。
そうすると先に取り上げた『流言』や『都市伝説』などが、ブログに多数登場するようになります。あるブログで書かれたうわさが、別のブログで引用されて広まります。ブログはトラックバックやコメントなど書き手同士をつなぐ機能が強いため、感動したストーリーや面白い話題が加速して広まるのです。
——何だか不幸の手紙などのチェーンメールに似ています。
チェーンメールでは『5人に転送しないと不幸になる』などと、ほかの人へ送らせるものです。実は書かれている内容には意味がありません。その目的は『自己の複製を作ること』。複製を作らせる=メールを転送させること自体が目的で、ウイルスとそっくりの構造です。
例えば不幸の手紙では、不幸にはなりたくないという、誰でも持っている感情を揺さぶって転送させます。また希少血液型の献血のお願いなどのメールでは、読み手のボランティア精神を利用しています。
——ブログで10個の質問に対して回答する『バトン』が流行しています。
最初に登場した『ミュージックバトン』は音楽の趣味についての質問で、受け取った人が自分のブログやSNSに回答を書くもの。さらに運動会のバトンのように、友人に渡していきます。さまざまなバトンが流行していますが、いずれも受け取った人に回答を迫るものです。
バトンは『友人に送ってください』という形式なので、チェーンメールのブログ版といえます。ネタ探しに困ったブログの書き手だと、ためらいなく回答・公開してしまうようです。しかしバトンは自分の生活スタイルなどを強制的に公開させるものですから、モラルに違反するのは明らか。モラルのある人なら、転送せずに自分で止めるはずです。
SNSは支え合い——SNSサービス大手、mixiでのコミュニケーションをどう思われますか?
mixiのように自分のプロフィルを公開するコミュニティーでは、掲示板のようにお互いをけなしたり攻撃することはまれです。同じ趣味や嗜好を持つ人同士が、励まし合ったり、お互いを支えたりということが起きています。知り合い同士が支え合うという意味では、高齢化社会でのコミュニケーションにうってつけでしょう。
掲示板「2ちゃんねる」は——ブログやSNSに対して、以前からある「2ちゃんねる」などの掲示板についてどう思われますか?
巨大掲示板『2ちゃんねる』は『便所の落書き』などと揶揄されています。しかし『2ちゃんねる』を利用するユーザーの多くは、ネットの情報を素早く集めて分析する高い能力を持っています。情報リテラシーが高いんですね。そのため事件が起きたり怪しいうわさが流れたりすると、すぐに検索をかけてあらゆる方面の情報が『2ちゃんねる』に集まります。玉石混交ではありますが、情報が瞬時に集まる重要なメディアであることは間違いありません。
また『2ちゃんねる』では、政治的に右寄りといわれる書き込みが多く、左寄りと考えられている朝日新聞は徹底的にたたかれています。理由として、朝日新聞など大手メディアが愛国心など一定の価値観を抑圧したことが挙げられるでしょう。右寄りの報道が抑えられていた反動がインターネットに噴出しています。発言のモチベーションは高く、『2ちゃんねる』の朝日新聞たたきなどにつながっているのでしょう。(三上洋・テクニカルライター/2006年8月24日発売「YOMIURI PC」10月号から)