2006年09月17日(日) 15時01分

日曜インタビュー：ＮＰＯ「心に響く文集・編集局」理事長・茂幸雄さん　／福井（毎日新聞）

　◇「毎日社会福祉顕彰」受賞　自殺食い止めへ、東尋坊パトロール−−茂幸雄さん（６２）
　◇保護した後、再び命を絶つ人も−−行政のケア充実を
　優れた功績をあげる社会福祉関係者、団体を全国から選び、たたえる「第３６回毎日社会福祉顕彰」を、福井県のＮＰＯ「心に響く文集・編集局」が受賞した。理事長の茂幸雄さん（６２）が０４年５月、同県坂井市三国町の景勝地、東尋坊に自殺しようと訪れる人を保護するために立ち上げた。ＮＰＯのメンバーは絶壁の続く海岸を毎日パトロールする。「受賞を仲間と喜び合いたい」という茂さんに、活動に打ち込む熱い思いを聞いた。【大久保陽一】
　——受賞おめでとうございます。
　茂さん　栄誉ある賞を頂きました。「自殺を水際で食い止める」との思いで活動に２年半、打ち込んできました。自殺に追い込まれる人は、相手に自分の思いを伝えることが出来ない人が多い。活動を通じて彼らの生の声を世間に伝え、「自殺は個人の問題でなく、社会の問題だ」と訴え続けてきたことが良かったのでしょうか。受賞を機に、困っている人たちの「人生のセコンド役」としてのＮＰＯの活動をさらに充実させようと決意しています。
　——メンバーの「自殺者を無くしたい」という熱い思いに支えられた活動が評価されたように思いますが。
　茂さん　水際での保護活動以外に、今年５月には「自殺対策基本法」（６月成立）の制定を求め、全国で展開した「３万人署名活動」にも参加しました。その時の様子がマスコミに紹介され、奈良県立高田高陸上部の生徒から思いも寄らない１５３人分の署名が届きました。「親に養ってもらっていて、自殺者の経済的な苦しみなどはわからないが、何か活動に協力したかった」という手紙まで添えられていて、若い人たちにも自分たちの思いが伝わった、と感激しました。
　「ＷＨＯ世界自殺デー」の今月１０日には、東京でＮＰＯ関係者や弁護士、厚生労働省の担当者らが集まり、国内の自殺予防について本格的に話しあう「緊急フォーラム２００６」に参加させてもらい、保護した人たちの生の声を収集、分析し、自殺対策に生かすことを提言しました。参加して、自殺は地域の問題であると同時に、全国的規模の問題だと実感しました。
　——特に印象に残っている保護した人は。
　茂さん　これまで東尋坊で保護した９３人すべての人が気にかかります。保護した後も電話で連絡を取り、「立ち直って元気に生活しているか」と声をかけますが、再び命を絶つ人もいる。今年８月には大阪府羽曳野市の女性（３７）と長女（３）と生後１カ月の長男の親子３人を保護しました。母親は東尋坊の飲食店でビールを飲んでおり、３歳の長女は「おうち帰ろう」と泣きじゃくっていました。県警坂井西署に引き渡し、親子は大阪市内の親せき宅に帰りましたが、翌日高層マンションから飛び降り自殺した。今でも悔やみきれません。
　——自殺予防に取り組む上での課題は。
　茂さん　東尋坊で年間平均２５人が自殺します。うち、８割は県外出身者です。彼らを保護しても、「地元の保健所に戻って手続きをしてくれ」と対応をたらい回しにされることが多い。
　また、自殺者の７割が４０〜５０歳代の男性です。福井県内の人でも、保護すれば女性には「母子生活支援施設」がありますが、男性を一時収容できる施設はありません。今後は本籍地か最長納税先の自治体の責任による保護者のケアを万全にすることや、男性の収容施設を確保することが必要と考えています。
　福井県の「自殺・ストレス防止対策協議会」の委員にもならせていただきました。これら行政がしなければいけないことを、まずは県に強く働きかけていきます。また、ＮＰＯの活動も財政面で赤字が続き、ボランティアの協力で何とか成り立っているような状況です。保護した人たちの就職の世話や住まいの確保などもＮＰＯが自前でしており、財政的な支援も求めていきたい。
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　■人物略歴
　◇しげ・ゆきお
　１９４４年福井市生まれ。６２年に福井県警巡査に採用され、主に県警本部生活安全部でサラ金や薬物など生活・経済事件の捜査に従事。０３年４月〜０４年３月、県警三国署（現・坂井西署）副署長。退職後の０４年５月、ＮＰＯ「心に響く文集・編集局」設立。０６年６月、福井県自殺・ストレス防止対策協議会委員に就任。福井市内で妻、母親と３人で暮らす。

９月１７日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060917-00000228-mailo-l18