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生い立ちをたどれば、挫折や無念の連続だったろう。オウム事件の核心は、麻原被告の社会に対する恨みや敵意だったのかもしれない。
生まれながらに、左目がほとんど見えなかった。その障害のため、不本意ながら、盲学校に通わされ、医師になる夢を捨てたとされる。
「東大へ行く」「政治家になる」と語り、郷里の熊本から上京したが、夢は次々と砕かれ、ついにニセ薬を売って逮捕される。
そんな運命を恨んだのだろうか。社会を呪(のろ)ったのだろうか。
松本智津夫という本名を捨て、麻原彰晃という“衣装”をまとうと、夢というより妄想を膨らませ、やがて身勝手な犯罪へと暴走した。
それが、オウム帝国という疑似国家である。われわれから見れば、現実離れした虚構の帝国であったとしても、麻原被告にとっては、“省庁”をそろえた現実世界だった。その疑似国家が、本物の国家に対し、鋭い牙をむいて挑んだのが、オウム事件ではなかったか。
地下鉄サリン事件など十三事件で起訴され、死亡者は二十七人にのぼる。世界を驚愕(きょうがく)させた大事件なのに、被告自身が法廷でほとんど何も語らなかったため、真相も真意も推し量ることしかできない。
教団はバブル景気とともに巨大化し、バブル崩壊とともに加速度的に殺人集団へと化した。サリンやVXガスなどの化学兵器をプラント生産していた事実は、あまりに衝撃的だった。それに比べ、警察当局の出動は遅かった。カルト集団をめぐる教訓をくみ取らねばならない。
有名大学を出た若者たちが、なぜ麻原被告を「グル」とあがめ、無差別テロに走ったのか。なぜ凶暴な教義の呪縛(じゅばく)から逃れられなかったのか…。裁判の場での解明には至らなかった。疑問の不完全燃焼は残念だ。真相究明こそが、テロ対策の第一歩だからだ。
オウム対策の「団体規制法」が制定され、教団の活動は公安調査庁の観察下にある。分裂騒ぎの渦中にあるといえども、関係者によれば、今も出家信者は約四百人、在家信者は約千人にのぼるといわれる。
超能力や神秘体験…。ネットを通じて、より若者はカルトに取り込まれたりする時代である。オウムを生んだ“病巣”は、今も社会のいたるところにある。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20060916/col_____sha_____002.shtml