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大阪(伊丹)空港周辺の騒音区域に住む移転希望者の受け皿として整備された共同住宅の住民が、再び転居を迫られる事態になっている。独立行政法人化に伴い、累積赤字の解消を求められた「空港周辺整備機構」が、住宅を民間の不動産業者に売却。この業者が住民に立ち退きを求めているためだ。反発する住民の間からは「再び国の施策のしわ寄せを被った」と怒りの声があがっている。
共同住宅は大阪府豊中市内に5カ所、兵庫県尼崎市内に1カ所あり、業者に売却された昨年11月時点では、約200世帯が住んでいた。
76〜83年に整備され、いずれも鉄筋コンクリート5階建て。大半が3DKで、家賃は月額5万6600円〜7万1600円。周辺の相場からは割安になっている。
一方、空港周辺整備機構は03年10月、行政改革の一環として、独立採算が求められる独立行政法人に移行。政府から11億6400万円の累積赤字を07年度末までに3割削減するよう求められた。
共同住宅は家賃を低く抑えているうえ、入居者の減少で空室が3割を超え、年々赤字が膨らむ一方。そこで、同機構は昨夏から住宅の処分を検討。11月末、大阪市内の不動産業者と、6カ所の土地建物を一括して22億6千万円で売却する契約を結んだ。
「マンションブームの影響か、想定の2倍の売値がついた。組織の生き残りのため、絶好の機会を逃すことはできなかった」と同機構。
事前に情報が漏れれば、反対運動で契約ができなくなる可能性があるとして、住民へは12月末の事後報告となったが、機構側は「居住条件は一方的に変更されない」と説明していた。
ところが、住宅を買い取った業者は今年5月ごろから、豊中市の利倉(とくら)西第1、第2、第3住宅の住民に対し、立ち退き料100万円などを条件に、8月末までの立ち退きを求め始めた。跡地の活用方法については、詳しい説明はしていないという。
これに対し、第1住宅では、自治会が中心となり、46世帯のうち26世帯が連名で立ち退きを拒否。同住宅に住む男性(69)は以前、空港に近い豊中市野田町の文化住宅に住んでいたが、騒音が激しくなり、81年に家族4人で引っ越してきた。「終(つい)の棲家(すみか)と考えていたのに、採算に合わないからと勝手に売却された」と憤る。
同住宅は結局、業者が存続を認める方針に転換したが、第2、第3住宅では、8月末の期限までに多くが転居、なお残る数世帯が今後の業者の出方に不安を抱える日々を過ごしている。
第2住宅に残る男性(72)は、自宅に機械の輸出業の事務所を構えており、「仕事先との関係で、簡単には移転できない」という。
このほか、住民全員が立ち退きに応じたと見られる豊中市熊野町と服部本町の住宅では、すでに解体工事が始まっている。尼崎市の小中島住宅では立ち退き要求はないという。
民間業者への売却について、同機構は「立ち退きを求められることも想定したが、住民には借家権があるので、一方的に立ち退かされることはないと考えた」と説明。業者は「取材には応じられない」としている。
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〈新藤宗幸・千葉大法経学部教授(行政学)の話〉 住宅売却前の説明責任ある
独立行政法人となり、所有する土地や建物を売却するのは、経営改善を進める上での選択肢の一つとしてありうる。だが、共同住宅に入居した人たちは、空港の騒音問題で立ち退いてきたという経緯があるのだから、売却する前に入居者にしっかりと説明する責任がある。住民の怒りはもっともだ。空港周辺整備機構は住民の相談にのるなどのアフターケアをするべきだ。
〈空港周辺整備機構〉 市街地に近く、航空機騒音が社会問題化していた大阪(伊丹)空港周辺の騒音対策を目的に、国と大阪府、兵庫県が出資して74年、旧運輸省所管の認可法人「大阪国際空港周辺整備機構」を設立。85年に「福岡空港周辺整備機構」と統合され、空港周辺整備機構になり、03年に独立行政法人化された。周辺住民の移転の補償や防音工事への助成、緑地の整備などを行っている。