2006年09月06日(水) 01時38分
<岐阜県庁裏金問題>組織ぐるみの隠ぺい工作浮き彫りに(毎日新聞)
岐阜県庁での約17億円にのぼる巨額の裏金問題は、弁護士で作る第三者機関「プール資金問題検討委員会」の調査報告で、処分に困って焼却した職員の苦悩や組織ぐるみの隠ぺい工作の実態が浮かび上がった。調査を見送っていた梶原拓・前知事らの責任も明確に指摘されたが、退職者の処分はできないうえ、刑事告発の対象者も時効の壁で限られており、県民の信頼を取り戻す道のりは遠い。【秋山信一、桜井平、浜名晋一】
「あるはずのない金を持たされ、苦しい気持ちから燃やした」。現金約15万円と残高約70万円の預金通帳を官舎のコンロで焼いた県可茂用水道事務所の元幹部は毎日新聞の取材にこう明かした。00年春に前任者から「触ってはいけない金」として引き継いだ直後だった。
組織ぐるみで作られた裏金は、官官接待や国への陳情の際の土産代などに使われてきた。職場の金庫に現金で保管されたほか、課や庶務担当者らの名義で口座に預けられた。さらに、飲食店や事務用品店などから白紙の請求書をもらって架空の支出をし、「預かり金」としてその業者に保管させることもあった。
95年度の県情報公開条例施行以降、この金は行き場をなくす。99年からは県職員組合の口座に集約されるが、指示があいまいだったため、一部では担当者が保管・処理を任された。検討委の調査では▽個人保管が1億4825万円▽ユニセフなど団体への寄付が2181万円▽焼却・廃棄が581万円。上司の交際費や飲食など職場で使った金もあった。金の処理に困ってノイローゼになったり、自殺しかねない職員もいたとされる。
組合に集約された金の使い道もずさんだった。組合活動費や県主催事業のチケット購入、車の速度違反者の裁判費用にも充てられた。
◇副知事が「封印」を進言
「1億円に上る裏金が各課に残っている」。98年末ごろ、当時の森元恒雄副知事(現参院議員=比例代表)は県幹部から裏金の存在を知らされた。99年4月の組織再編を控え発覚を恐れた森元氏は、知事公室長に裏金をどこかに一本化するよう指示。県職員組合委員長経験者の出納長の提案で、外部監査が及ばない組合の口座に集約することが決まった。
検討委によると、同県では情報公開条例が施行される直前の94年度、知事部局の7割余、県立学校を除く県教委の8割余の部署で裏金作りが行われていた。官官接待費などのねん出や予算の使い切り主義が背景にあり、手口は大半が旅費の不正請求だった。
90年代半ばに全国各地で裏金問題が発覚し、多くの自治体は改善策を取った。しかし岐阜県は梶原前知事らが隠ぺいを図った。96〜97年度、梶原氏に対し、森元氏が裏金を調査せず事態の推移を見守るよう進言した。その際、知事が東京に出張した時の宿泊費の一部が裏金から出ていることを伝えたうえ「(調査すれば)県庁全体が混乱する」と説明し、梶原氏も了承したという。梶原氏はこのやり取りを否定するが、検討委は梶原氏が裏金の存在を知っていたと結論付け、「梶原氏の姿勢が裏金の組合への集約や焼却などの行為を招いた」と厳しく批判している。
◇梶原前知事は説明を回避
古田肇知事は5日、会見で「検討委の考えに沿って対応していきたい」と述べ、裏金の返還や関係者の処分、再発防止策などを今月中にまとめ、刑事告発も検討することを明らかにした。
検討委は、OBと現職が6対4の割合で裏金を返還するよう提言。OB分に関しては梶原氏を含む8人の元幹部を特に名指しし、1割(約8671万円)以上の負担を求めた。また梶原氏ら5人に県関連の公職から退任するよう促している。
だがOBは地方公務員法に基づく処分ができない。責任者を刑事告発しようにも、既に大半のケースは公訴時効が成立している。結局、検討委が告発の対象としたのは、私的流用が強く疑われる職員数人にとどまった。県民の間には「県当局は信用できない」との声が渦巻いており、県がまとめる対応策の内容によってはさらに批判が強まりかねない。
梶原氏は8月8日の会見で「全責任を負うべきものと考えている」と語った。しかし、今月2日に予定していた会見を一方的に延期。公職辞任を求められた5人のうち梶原氏だけが今のところ辞意を表明していない。
◆検討委報告の骨子◆
▽92年度から03年度までにねん出された不正資金は約17億円。そのうち組合にプールされたのは約2億7000万円。
▽返還総額は利息を含め約19億2000万円。そのうち約14億4500万円を退職管理職(約1400人)が6割、現職管理職(約800人)が4割を負担する。
▽前知事ら旧幹部の責任は重く、県関連の公職からの自主的な退任、資金返還での中心的な役割を期待する。
▽現職管理職については、個々の様態に応じた処分が相当。
▽刑事責任を問うことが必要な者数人を刑事告発の対象とすべきだ。
▽岐阜県の裏金問題 架空の出張旅費を請求するなどの手口で、昭和40年代から岐阜県庁全体で裏金作りが進められ、情報公開条例が施行される直前の94年度には約4億6600万円に上った。99年1月、当時の森元恒雄副知事の指示で、県監査の対象とならない職員組合の口座への裏金の集約が始まり、ピークの01年には3〜6月に1億4780万円がプールされた。組合に集約されなかった裏金は、職員の懇親会などに使われたほか焼却されたり廃棄されたとされる。今年7月に裏金の存在が発覚し、県は内部調査を開始。梶原拓前知事は会見で自身の関与を否定したが、第三者機関の検討委員会が1日発表した報告書は、前知事が不正経理資金の総点検を行わなかったとして「重大な責任がある」と強く批判した。
(毎日新聞) - 9月6日1時38分更新
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