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[加藤氏宅放火]「やはり言論封殺が狙いだった」
「加藤氏の発言を不満に思い放火した」。加藤紘一・元自民党幹事長宅への放火容疑で逮捕された右翼団体構成員の男が、そう供述しているという。
「借金があって生活が苦しく死にたいと思った」とも話しているというが、加藤氏宅を狙ったのは、やはり政治的なテロだったのだろう。
民主主義社会にあって、暴力による言論封殺は許されないことだ。
加藤氏は、小泉首相の靖国神社参拝に批判的な発言を繰り返してきた。先月の終戦記念日の参拝に対しても、「日本と戦いを交えた国は非常に挑戦的と受け取る」などと話していた。
男は、加藤氏の靖国問題に対する政治姿勢に反発し、個人的な事情もからんで過激な行動に走ったようだ。
しかも、加藤氏の母親が暮らす山形県鶴岡市の実家を標的にした。家族や家庭は、政治家に限らず最も大切なものであり、また弱みともなる。
こんな卑劣な犯行がまかり通れば、恐怖感から発言を控えようという空気が広がりかねない。警察は動機や政治的背景をさらに厳しく追及する必要がある。
事件後、与野党の国会議員からは、自由な発言を封じようとする危険な風潮を憂慮する声が相次いでいる。確かに、最近、そう感じさせるような不気味な事件が続いている。
別の右翼団体の構成員が昨年9月、首相の靖国参拝は違憲とする声明を出した京都市の西本願寺に侵入し、放火しようとした事件があった。
昨年1月には、富士ゼロックスの会長だった小林陽太郎氏宅の植え込みに火炎瓶が仕掛けられた。小林氏は新日中友好21世紀委員会の日本側座長として、首相の靖国参拝を批判していた。
政治家などにカッターの刃や銃弾入りの封筒を送りつける。街宣車で乗り付けて、大音量で怒号する。こうした手口もある。次はこの程度では済まない、と脅しをかけているのだろう。
警察庁によると、活発な活動をしている右翼団体は約900あり、構成員は約1万人に上る。加藤氏宅を襲った右翼構成員が所属する団体は、最近は目立った活動をしていなかったという。右翼構成員の全容把握は容易ではない。
だが、事件を起こされること自体が警察の失態だ。情報収集などを強化し、未然防止に全力を挙げてもらいたい。
右翼に限らず左翼の過激派も、成田空港や歴史教科書などの問題でテロや脅しまがいの威圧行動を繰り返してきた。
正義をはき違え、言論の自由を脅かす暴力をのさばらせてはならない。