2006年09月01日(金) 17時06分
毅君回復の新学期 唐津・ひき逃げ事件から3カ月 リハビリはまだ続くけど 「目標はかけっこ1番」(西日本新聞)
新学期が始まった1日、佐賀県唐津市厳木(きゅうらぎ)町の山の分校に1人の男児が元気な姿を見せた。5月に起きたひき逃げ事件で頭に重傷を負った小学5年の家原毅(つよし)君(11)。事故後、長時間、山中に放置され、一時は命も危ぶまれたが、家族や地域の人たちの励ましに支えられて回復した。夏休みもよく遊び、真っ黒に日焼けした毅君は笑顔で先生や友達との再会を喜んだ。
毅君が通うのは厳木小広川分校。児童数4人の小さな学校だ。標高500メートルを超える一帯は既に秋の気配。毅君は長袖で始業式に出席した。山崎泰雄校長は「夏休みに子どもが巻き込まれる事件や事故がたくさんあって悲しい思いをしました。お父さんお母さんも、みんなが元気に過ごすことが一番の願いだと思います」と語りかけた。
毅君が事故に遭ったのは5月20日の夕方。自転車で帰宅中にダンプカーにはねられ、連れ去られて山中に放置された。約8時間半後、家族らが発見し、一命を取り留めた。6月13日には病院を退院。徐々に登校できるようになっていた。
父、定生さん(48)は「体は元通りに戻った。とても安心している」と話す。ただ、事故の後遺症で、目で見た情報の処理能力が落ちているという。このため唐津市内の病院で週2、3日、数字パズルを解くなど脳のリハビリを続けている。
毅君の夏休み一番の思い出は、定生さんと次兄の成輝君(14)と3人で、唐津の港に釣りに行ったこと。「アジの子40匹とクロ(メジナ)2匹、チヌの子1匹が釣れたよ」と誇らしげだ。それは「治ったら好きな釣りに連れて行ってやりたい」と願っていた定生さんにとっても、最高の思い出となった。
佐賀市の映画館とバッティングセンターにも行った。以前、分校にいた先生が連れて行ってくれた。映画はパイレーツ・オブ・カリビアン。「わくわくしたけど、敵が急に出てきて驚いた」という。この先生は事故の夜、偶然、現場を車で通りがかり、長兄の聡一朗君(15)と一緒に毅君を捜索し、発見した1人だ。
始業式の後、毅君は「天ぷら油で作ったろうそくの燃え方調べ」を夏休みの自由研究として、担任の吉田誠也教諭に提出した。
二学期の目標は? と尋ねると「本校と一緒にやる10月の運動会。かけっこで一番になりたい」と目を輝かせ、同級生の荒久田孝行君(10)とは「また野球しようね」と話し合った。
事故のつらい記憶も徐々に遠ざかり、毅君は温かい家族や学校、地域に囲まれて暮らしている。
(佐賀総局・野津原広中)
=2006/09/01付 西日本新聞夕刊=
(西日本新聞) - 9月1日17時6分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060901-00000020-nnp-l41