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2006年08月30日(水) 00時00分

情報戦で「魔女」復活だ朝日新聞

●ボールの応酬を瞬時に分析
●北京五輪「金」に向け戦略練る
(文・松浦祐子 写真・藤脇正真)

 「ニッポン、ニッポン」。大声援が東京・有明コロシアムを圧した。18日、バレーボール女子のワールドグランプリ(GP)の開幕戦。相手は昨年のGPでフルセットの末に敗れたキューバだった。

 1、2セット連取に沸く客席をよそに、エンドライン後方に男性が陣取り、戦況を見つめていた。全日本女子のアナリスト渡辺啓太さん(22)だ。パソコンを操作し、サーブ、トス、アタック、ブロックの成功率からボールのコースまで瞬時に分析する。データは無線を使い、コーチを経て柳本晶一監督に伝えられる。画面上でコートを将棋盤と同じ81マスに分割し、敵陣のどこにサーブが入ると、どこから攻撃される傾向があるかも探る。相手にレシーブさせる位置に応じ、予想されるアタックのコースにブロックの網を張る。

 日本は第3セットも取り、ストレート勝ちを収めた。「欲しかった勝利。とにかくうれしい」

  ◎

 世界の潮流は情報戦だ。全日本女子の荒木田裕子団長も「実力伯仲の今、情報収集、分析、戦略が勝敗を左右する三大要素です」。

 渡辺さんがバレーを始めたのは中学時代。専修大でも練習に励んだが、レギュラーの座は遠い。大学で専攻したIT(情報技術)を生かし、「自分にしかできない貢献を」とアナリストを志した。プロのアナリストはたいていイタリア製の分析ソフトを使うが、高価で手が出ない。エクセル関数やマクロ計算を駆使して自前でソフトを作り、チーム力を解析した。

 こうした努力が柳本監督の目にとまった。大学3年だった04年、アテネ五輪最終予選のアナリストサポート班に起用。昨年のワールドGPにはアナリストチーフとして参加した。「北京五輪で1番になるために君の力が必要だ」。監督から請われ、大学を卒業した今春、日本バレーボール協会の専属アナリスト第1号に採用された。

 対戦相手だけでなく、全日本女子の戦力分析、課題の洗い出し、戦略立案も重要な任務だ。海外遠征にも帯同し、チームを見守る。練習中もビデオを撮り、選手のフォームを連続写真に記録する。

  ◎

 北京五輪金メダルのために渡辺さんの掲げた目標は「効果率を30%まで引き上げよう」。アタックの決定率に失点率を加味し、はじき出す数値が、効果率である。全日本の各選手を分析したところ、決定率は国内のVリーグでも国際大会でも平均39%と変わらないのに、効果率の場合、国際大会は24%と、国内の試合の32・7%から際だって落ちることが分かった。ブラジルをはじめトップレベルの強豪国の効果率は40%近い。互角に渡り合うには、失点率を下げる手だてが必要だったのだ。

 「世界のトップレベルに並ぶために、適切な着眼点で、分かりやすい目標を示す。それが、アナリストの重要な仕事です」

 柳本監督も「抜群の分析能力、チームが必要とする情報を的確に提供する能力で彼の右に出るものはいない」と信頼を寄せる。

 「東洋の魔女」の復活へ。チームを支える黒衣の思いは熱い。

■■独言伝言■■

◆選手とのやり取り重視

 アナリストにとって、パソコンはなくてはならない相棒だ。コートサイドのベンチとアナリスト席をつなぐ無線LANの手配や機器の整備も担う。

 だが、肝に銘じているのは「機械に使われては駄目だ」という柳本監督の言葉だ。だからこそ、選手とのコミュニケーションにも心を砕く。

 肌身離さず持ち歩く小さなノートには選手ひとりひとりに1ページずつ割り振り、いつ、どこで、どんなやり取りをし、どのようなデータを提供したか、余すところなく書き込む。

 「五輪優勝は、誰でももてる夢ではない。数字だけではない、選手たちの変化を記録していきたい」

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000120608300002