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空気のような存在だった連れ合いから、ある日突然別れを切り出される「熟年離婚」。そんな悲劇を防ごうと、「結婚記念日」を見直す兆しが出てきた。銀婚式やサンゴ婚式で感謝を伝えたり、贈り物に工夫を凝らしたり。記念日を休暇にする会社も。商機を狙う企業戦略もちらつくが、夫婦円満に効果が見込めるのなら、試してみる価値はありそうだ。
陽光あふれる沖縄のチャペルで5月、1組の熟年カップルがサンゴ婚式を挙げた。欧米から伝わったとされるサンゴ婚式は、結婚35周年を祝うもの。計画したのは、都内に住む渡部義夫さん(57)だ。
渡部さんは、ブライダルサービス大手の役員を務めていたが、体調を崩し、6月末で退任することになっていた。人生の節目に思い立ったのは、35年連れ添った妻の明美さん(59)に感謝を伝えること。ハワイでの勤務時代、教会で熟年夫婦が改めて愛を誓う儀式があることを知り、いつか自分もと構想を温めていた。
明美さんは娘の結婚式で買ったイブニングドレスを着用し、渡部さんはタキシードをレンタル。親族や会社の部下に声を掛けたら、約20人が集まった。参列者が見守る中、夫婦は牧師の前で「誓いの言葉」ならぬ「感謝の言葉」を交わした。
「山あり谷ありの人生、支えてくれてありがとう」と渡部さん。「いろいろなことがあったね。これからは二人でゆっくり過ごそうね」と明美さん。大きな拍手の中、涙ぐむ妻を見て、渡部さんは胸が熱くなった。
「仕事人間だったから、熟年離婚は他人事ではなかった」。それだけに、「きずなが深まり、やって良かった」と喜ぶ。式は15分間、パーティーは会費制。費用はチャペル使用料や衣装レンタル料など約25万円。
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ちょうど定年のころに迎えるサンゴ婚式だが、日本ではまだなじみが薄い。渡部さんが役員を務めていたブライダル会社でも取り扱いは少ないが、「サンゴ婚式に限らず結婚記念日を祝う人は確かに増えている」という。
かつて新婚旅行の名所だった静岡県熱海市のリゾート施設「アカオリゾート公国」。今度は結婚記念旅行の名所にしようと、記念イベントに力を入れる。結婚記念日に宿泊する夫婦は一昨年は約200組だったが、昨年は約400組に倍増。今年はさらに上回りそうだ。金婚式(50周年)やルビー婚式(40周年)などのパーティーも以前はあまりなかったが、昨年は約20組。今年はさらに増える勢いだ。
オーナーの赤尾信幸さん(54)がズバリ指摘する。「週末はゴルフ、子育ては妻に任せっぱなしという男性が、人生を振り返った時に負い目を感じ、旅行やパーティーで妻に償おうとするケースが多いのでは」
「リーガロイヤルホテル東京」(東京都新宿区)内の日本料理店やフランス料理店でも最近、銀婚式(25周年)を祝う夫婦の食事予約が増加。ホテル側は「身内のお祝いに金をかける人が増えた」と“家庭回帰”の傾向を指摘し、記念写真撮影などのプランを今後検討するとしている。
結婚記念日の前後1週間のうち1日を休みにし、食事代1万円を補助するのは、飲食店情報検索サイト運営会社「ぐるなび」(千代田区)。昨年の導入以来、グループ会社を含め400人以上の社員が利用した。会長の滝久雄さん(66)は「家庭を顧みない企業戦士を生んだ社会環境が熟年離婚の背景にある」と指摘。「家庭円満だと仕事も安定する」と語る。
結婚記念日のカップル向けに、1輪1万円のバラを商品化したのは、ブライダル関連会社「セレブレーション」(渋谷区)。皇后さまゆかりの「プリンセス・ミチコ」を栽培する愛知県内の農園から、その日一番の出来栄えのバラを直送するサービスだ。「希少価値があり、特別な思いが伝わるはず」と、社長の広瀬正博さん(50)。
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厚生労働省の人口動態統計によると、同居期間30年以上の夫婦の離婚件数は、昨年約1万1000件。10年前の約2倍になった。
結婚記念日の演出などを手掛けるヒューマンイベントプロデューサー・島崎皖(きよ)さん(66)は「私の周囲にも『早く自由になりたい』という“熟年離婚予備軍”は多い。離婚後に厚生年金を夫婦で分割できる制度が来年導入されると、熟年離婚の増加に拍車がかかるかも」と指摘し、「年を取ってから一人になるのはつらい。まずは、結婚記念日を夫婦一緒に過ごすことから始めてみては」とアドバイスしている。
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