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「悪質な社員が一人いたという話ではない。経営陣のいいかげんな体質に大部分の社員はあきれているし、士気も低下している。今回の事件は、そういう下地の上に起きたんです」
ある日経社員はこう嘆く。社員によると、今年二月に事件が発覚した後の四月十二日、全社員の元へ杉田亮毅社長名で封書入りの「手紙」が配られたという。
「新聞社で働く者としての自覚を要請するような内容でしたが、異様だったのは手紙を読んだ途端に笑い飛ばす者が何人もいたことですよ。本来、責任をとるべき社長が、あろうことか、お願いをしてきたんだから笑うしかないということです」
日経では二〇〇三年一月、幹部社員が、当時の鶴田卓彦社長ら経営陣が会社を私物化したとして告発し、退陣を迫る「造反劇」が起きた。解雇された幹部社員は株主代表訴訟を起こして応酬した。この訴訟は〇四年十二月に東京地裁で和解が成立。幹部社員は復職し、社内には学識経験者らをメンバーとする法令順守や再発防止のための委員会が設立された。
■『新聞社の誇りもかすれ士気低下』
「ところが」と社員は語る。「代わって登場した経営陣は鶴田元社長の息がかかったメンバーばかりで、風通しの悪い社内の雰囲気は何も変わらない。それで、誇りも道義心もかすれて、綱紀は緩みきったままなんですよ」
今回の事件が発覚する以前から広告局と編集局に所属する社員が株を短期売買することは内規によって禁じられていた。別のある社員は明かす。「でも、やる人はやっていた。みんな内規があることも知らなかったんじゃないですか」
日経では、その後、杉田社長の手紙によって中核事業に携わる全社員に株の売買を行わないように求めた。同社長室によると、情報漏れの原因となった共用のIDとパスワードは、頻繁に変えていくなど防止策を練っているという。
しかしこの社員は、もっと衝撃的な事実も語る。
「逮捕されたのは一人だが、実は彼は株式研究会というサークルをつくっていて、仲間がほかに二人いた」
株式サークルの存在について、同社長室の担当者は、本紙の質問に「把握していません」と回答した。
投資アドバイザーの田代肇氏は、憤りを込めてこう戒める。
■『北の偽ドル並みに悪質』
「個別の銘柄に対する日経の影響力は、財務省や金融庁よりも大きい。小さな記事の一本で、株価が上がったり、下がったりする。それを知っていてインサイダーをやったなら、必ずもうかるという意味で北朝鮮の偽ドルと同じぐらいに悪質な話だ。昨年からサラリーマンや主婦で株を買う人が増えた。ところがライブドア、村上ファンド事件や日銀・福井総裁問題と続き、市場は冷え始めている。投資家は、またかという気持ちだろう。日経の信頼回復の道は厳しいよ」
日経社員によるインサイダー取引事件は、企業経営者にとって対岸の火事ではない。今回は、逮捕された社員が以前に所属していた金融広告部の共用IDとパスワードが長年、変更されなかったため、この社員がやすやすと“マル秘”情報を入手できたという。ここまで低レベルでなくとも、IT防衛の未熟ぶりから不祥事が起き、社員のみならず企業が訴えられるケースは考えられる。
そうした事態を見越し、社員の動きを常時監視する企業も増えている。
情報セキュリティ大学院大学客員助教授でジャーナリストの小林雅一氏は著書「プライバシー・ゼロ 社員監視時代」(光文社)の中で、各企業の徹底的な“社員監視”を描いている。
■不正使用なら担当者走る社
例えば、かつて顧客情報の漏えい事件を起こした大手IT企業は推定百億円をかけて徹底的な監視体制を築き上げたという。同社はアルバイトも含めた全従業員のパソコンに「監視ソフト」をインストールし、オペレーションセンターが二十四時間監視している。不正使用があるとブザーが鳴って従業員名が表示され、セキュリティー部隊が飛び出して行くという。
同社は、通常業務に使うオフィスからは顧客データにアクセスできなくした。従業員は、わざわざ「高セキュリティーエリア」と称する場所に行かねばならない。その際も入館申請書を提出し、金属探知機などをクリアしないと入れないというからすごい。
リーマン・ブラザーズ証券など外資の投資銀行でM&A(企業の合併・買収)に従事し、「投資銀行」の著書がある岩崎日出俊氏は、外資系銀行セキュリティーの徹底した管理をこう説明する。
「M&Aを担当するアドバイザリー部門のオフィスには、社内関係者といえども債券部門や証券部門の者は立ち入れない。クライアント企業の極秘情報を守る“熱意”は、日本の銀行業界の比ではない。知らない人からM&A担当者への電話を受けた秘書は、担当者に尋ねることなく取り次ぎ拒否します」
管理者が自席に居ながらにして、全従業員のパソコン画面を順次閲覧できるすごいソフトもある。上司の目を盗んでインターネットのアダルトサイトにアクセスしたり、ゲームをやっても、管理者はお見通しとか。
こうした“社員性悪説”のシステムを完備しておけば、不祥事が発生した場合でも顧客や株主からの批判を免れることが可能だ。日経事件をきっかけに、企業の社員監視が強まるかもしれない。
従業員の電子メールが会社側にチェックされているのも「ずっと昔からの常識」(IT企業幹部)だ。都内のサラリーマン(50)はこう顔を引きつらせる。「上司の悪口を同僚にメールしたら『社内LAN経由のメールは全部、読まれていますよ』と忠告されました。ばかでした」
■“面倒くささ”ITに重要
前出の小林氏はこうした管理強化について「どこまで(社員監視を)やってよいか、事前に労使で話し合っておくことが大事。従業員に内証で監視し、労使間に不信感を生むのが一番いけないと思う」と指摘する。
法律家やIT技術者らは、こう口をそろえる。
「かつては膨大な個人情報をやりとりするにもファクスでは時間がかかって仕方なかったが、IT化がそれを楽にしてしまった。“面倒くささ”という障壁こそ、IT化が進むほど重要になってくるのです」
<デスクメモ>
入社のころ出版された「メディアの興亡」では日経がいち早く紙面制作をコンピューター化し新聞界の“勝ち組”として駆け上がっていく様が鮮やかに描かれた。一般紙やテレビに内定した末「これからは日経」と選んだ先輩もいた。そのコンピューター化に足をすくわれるとは。あらたなる興亡を予感する。 (蒲)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060727/mng_____tokuho__000.shtml