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[外国政府訴訟]「泣き寝入りの必要はなくなった」
外国政府を相手にした民事訴訟で、ようやく、わが国の個人や企業も、泣き寝入りしなくてよい環境が整えられた。
国際慣習法には、外国政府は民事訴訟の被告になることを免除されるという原則がある。それがどの程度まで認められるかが争われた裁判で最高裁が、1928年の大審院決定を変更する判決を言い渡した。
大審院決定は、「外国政府は、自ら同意した場合などを除き、他国の民事裁判権に服することはない」という考え方を中心に据えていた。外国の主権を重視して、例外をほとんど認めないため、「絶対免除主義」と呼ばれている。
最高裁が新判断を示したのは、東京都内の民間企業がパキスタン政府に納入したコンピューターの代金などの支払いを求めて起こした訴訟だ。東京高裁は2003年2月、絶対免除主義に立って企業側の請求を棄却していた。
これに対し、最高裁が採用したのは、「制限免除主義」だった。外国政府であっても、商取引など私法的行為については免除を認めないというものだ。経済のグローバル化に伴い、個人や民間企業が外国政府と取引を行うケースが増える中では、当然の考え方だろう。
制限免除主義は欧米諸国では早い時期から取り入れられてきた。伊、独、仏では20世紀前半までに判例上で確立した。米、英、シンガポールなどでも1970年代に次々と国内法が整備された。
国連でも1978年から、この考え方を採用した条約づくりが始まり、2004年12月に制限免除主義の「裁判権免除条約」が採択されている。
ところが、わが国の裁判でこの考え方を採用したのは、2000年11月、ナウル共和国が発行した円建て債券をめぐる訴訟で、東京地裁が出した判決が初めてだった。この訴訟も高裁段階では、大審院決定に沿う形の判断が示された。
最高裁によると、裁判免除が問題になった訴訟は1999年までの6年間だけで20件起こされたが、その大半が問題の大審院決定を踏襲していたという。
裁判所内部には、「国家主権が絡む難しい案件になると、安易に過去の判例に頼る教条主義的な姿勢が出てくる」という声もある。その結果、時代の変化に遅れ、国際常識ともずれた判断が長年にわたって放置されたとすれば、大いに反省しなければならない。
政府は裁判権免除条約についてまだ署名もしていない。国内法の整備を進めてこなかったことと合わせ、動きが鈍すぎると言えよう。この機会に、早急に手続きを進めるべきである。