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弁当箱をキャンバスに見立ててキャラクターを描く「キャラ弁」や、夫が妻に心を込めて作る「親父(おやじ)弁当」——。ユニークな弁当をネット上で日々見せ合いっこする弁当サイトが盛況だ。おいしく楽しい小宇宙、弁当の世界にはまる人たちを追った。
千葉県市原市の下村一美さん(38)方の台所。ピンセットやはさみ、型抜きを駆使し、卵焼き、キュウリ、のりで弁当箱の中にキャラクターを浮かび上がらせていく。制作時間は約1時間。
「はい出来上がり」。下村さんが笑顔で言うと、一人息子の奈生君(6)は「スッゲーうまそう」と身を乗り出した。
この日のキャラ弁は、絵本「ちびくろ・さんぼ」の図柄。主人公の「さんぼ」はのりで、虎は卵焼き、傘はキュウリだ。
毎週土曜にキャラ弁を作る下村さんは「弁当作りの表向きの理由は『息子への愛情』。でも実は、私が作りたいだけ」と明かす。一方、奈生君は「おいしいんだけど、キャラを崩すのがもったいなくて、なかなか食べられない」。
下村さんは昨年10月、弁当ブログを立ち上げた。「ネットで盛り上がって近々会う予定の人もいます。『どうせ作るなら楽しんじゃおう』っていう主婦が多いってことですよ」
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千葉市の主婦宮沢真理さん(45)が会社員の夫(46)のために弁当作りを始めたのは4年前。最初は昼食代節約が目的で、「おかずやご飯を詰め込むだけ」だったが、徐々にクマやウサギなど動物を中心とするキャラ弁に没頭していった。
しかし鉄道マニアで「アキバ系」の夫は、キャラ弁に無反応を装う。
「おいしかった?」
「うん」
「今日はどう?」
「ご飯が少ないな」
会社ではどうやら、同僚たちから隠れて弁当を食べているらしい。
宮沢さんは奮い立った。節約という目的はいつしか忘れ、「ほっぺを描くのに必要」と思えば、200円前後もするような赤いパプリカを買うのもちゅうちょしない。
宮沢さんも2003年3月にホームページを開き、毎日作るキャラ弁の紹介を始めた。今やネット上では、キャラ弁の達人の一人として名をはせている。
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男性も自作の弁当をネット上で公開する。
都内の特許事務所に勤め、ハンドルネーム「吉成(よしなり)」を名乗る男性(34)は昨年5月からネット上で「親父弁当」を紹介。毎朝5時に起きて妻(33)の弁当を作り、それをカメラ付き携帯で撮ってブログに載せる。キャラは描かない。白いご飯におかず、青物、卵焼きなど直球勝負の弁当だ。
「弁当作りで一日が始まります。さしずめ“愛夫”弁当でしょうかね」。台所に立つ吉成さんがそう言うと、妻は「頭が下がります」。
吉成さんが「日本以外の国では弁当を持っていくのだろうか」とブログで書いた時のこと。オーストラリア在住の女性から「インド人はカレー、欧米系はパスタとかスープ……」と投稿があった。「自分の弁当を世界中の人が見てくれていると思うとうれしい」と、吉成さんは日々の弁当作りに充足感を感じている。
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数ある弁当サイトをのぞくと、アニメや漫画のキャラクターを精密に再現する芸術作品のようなキャラ弁が技を競い合っている。また検索をかけると、「パパが作るお弁当」「熱血主夫」「愛夫弁当」といったタイトルのサイトが次々と現れ、弁当作りに励む男性が多いこともわかる。
雑誌で弁当作りの連載をする料理家・枝元なほみさんは、「みんな明るく正しく弁当を作っている。これこそネットの正しい使い方です」と絶賛。
「ブログ進化論 なぜ人は日記を晒すのか」(講談社)の著書があるブログ評論家・岡部敬史さんは「弁当サイトで家族の会話が増え、ネット上で情報交換すれば友達も出来る。生活の刺激になる。今後も弁当サイトが増えるのは間違いないでしょう」と話す。
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